11.空ノ音の先に夢がある

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11.空ノ音の先に夢がある

学園祭1日目。鮮やかに彩られた学園祭の看板を見上げる。去年のことを思いだし、目をつぶる。ここからわたしのすべてが始まった。空ノ音(そらのね)学園の演劇部に出会えた。なのに入学したらすでに演劇部がなくなっていたなんて思いもしなかった。でもたくさんの人に助けられて演劇部(仮)から正式に演劇部が誕生した。そしてまたここから……新しいわたしが始まるんだ。 学園祭の準備で忙しそうにしている生徒を横目で見ながら校舎の中に入る。部活掲示板前に置かれた机には、手作りのチラシがたくさん並べられている。その中でもひときわ目立つ存在が総合アクター部のチラシ。顔出ししないで活躍している女子高生に人気の歌い手が、うちの学校の生徒でもあり、総合アクター部に所属していると噂になっている。だから今回の総合アクター部が学園祭で披露する映画で主役をやるのではないかと、話題になっている。すべてが謎に包まれている分、周りの期待も大きいのかもしれない。でもその人気ですら演劇部にとってはありがたいことだよね。期待されていないわたし達だからこそのびのびと楽しんで出来る。自分たちらしさが伝わればいいなと思っている。 準備に追われる光景を見ながら廊下を凪彩(なぎさ)ちゃんと歩く。凪彩ちゃんは音楽室で明日の練習、わたしはこれから当日の舞台で演劇部に関わってくれる部活の部長、生徒会、学園祭実行委員と一緒に演劇部の部室で最終確認をしながら打ち合わせをする。 「うちのクラスがクレープ屋をするなんて知らなかったな」 「えっ!?いまさら?本当に花澄(かすみ)は演劇部のことしか見えてないんだね」 「ホントだね」 「でもうちらには学園祭を楽しむ余裕なんてないよね」 「なんだか今から緊張する」 「しっかりしなさいよ、部長」 「そうだね。お互い頑張ろうね」 音楽室へと向かう凪彩ちゃんと別れて部室へと向かう。学園祭の華やいだ空間から切り離されたように、演劇部の部室へと続く廊下は、静まり返っている。無音の空間がさらにわたしを緊張させる。
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