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「今、残念って顔したでしょ?」
「しっ、してませんよ」
「ふーん」
顔をほんのりと赤らめながら口元を手の甲でおさえながら、杏也先輩が慌てているようにも見える。こんなやりとりを目の前で見せられたら、それだけでも胸がずきりと痛む。
「やっぱり僕のほうがいいと思うんだけど」
いつの間にかわたしの横に立っていた阿左美先輩に耳打ちされる。
「阿左美先輩も案外しつこいですね。からかわないでください」
「でも僕のおかげで彼は燃えちゃってると思うよ。感謝してほしいくらいだよ」
「どういう意味ですか?」
「さぁね」
なんとか演劇部の打ち合わせを終わらせることが出来たけど、いつもの何倍もの疲労感にしばらく放心状態になる。演劇部の部員だけが残る部室は、それまでの騒がしさが嘘のように急に静けさを取り戻す。
「いよいよ明日なんだね」
「そうだね。悔いの残らないように全力で演じよう」
「わたし……演劇部でよかった。総合アクター部のオーディションに落ちたときはショックだったけど、今は胸を張って演劇部でよかったっていえる」
「土田さん」
「ありがとう。みんな」
「泣いちゃうからやめてよ」
みんなが目に涙をためながら笑っている。わたしだってみんなが演劇部の仲間だって大声で自慢したいくらい。
「部長の最後のせりふ、あれは誰に向けての言葉なの?」
「えっ?」
「思った。まっ、だいたい予想はつくけどね」
「なんでわかるの?」
「バレバレなんだけど」
じゃあもしかしてわたしの気持ちも本人に気づかれていたりする?頭の中がパニックになる。その間もみんなにからかわれているけど、まったく言葉が耳に入ってこない。
「伝わるかな……」
「伝わるよ。絶対」
それぞれの想いを胸に秘めたまま、学園祭最終日。本番の朝がやってくる。
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