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『そうそう。うちに来てくれて大きな画面を持って来てくれて丁寧に使い方を教えてくれたのよ』
「先輩達がおばあちゃんのためにわざわざタブレットを家まで持ってきてくれたの。これで演劇部の舞台の配信を観てくださいって」
「そうだったんだ。先輩達が」
『早く観たいわね。みんな頑張ってね』
お礼を伝えると、土田さんが通話を切る。緊張を一気に解放しながら那砂先輩達のやさしさに胸が温かくなっていく。
「アイス先輩って意外とやさしいんだね」
「そうなんだよ。みんなに誤解されちゃうけど本当はやさしくて面倒見がいいんだよ」
杏也先輩がほめられると自分のことのようにうれしくなるから、思わず身をのりだして力説する。
「はいはい。ノロケなら後で聞いてあげるから美容部の人が来る前にストレッチと声だし終わらせておこう」
「そうだね。恥ずかしいな」
我に返って考えるとノロケっていわれてもおかしくない発言をしちゃったのかもしれない。本当に杏也先輩のことになると周りが見えなくなっちゃうから気を付けないと。と思いながら準備をしていると、美容部の人が来てイメージに合わせてメイクをしてくれる。髪型だってゆるふわに巻いてくれて赤いリボンを結んでくれた。だんだんと自分ではなくて、物語の中の少女に変わっていくと思うと、自然と背筋が伸びていく。本番はもうすぐなんだ。
「やっと抜けられた。みんな支度できてる」
疲れきったような表情で汐里先輩が部室に入ってきた。
「汐里先輩。お疲れ様です」
「やだ!花澄ちゃんかわいい。わたしのイメージ通り」
「ありがとう……ございます」
少し照れながらお礼を伝える。もしも杏也先輩がわたしを見たらなんていってくれるかな?と淡い期待をしてしまう。一人ずつ衣装を確認していた汐里先輩が「完ぺき」といってくれたから、思わずみんなで歓声をあげる。
「記念に撮っておこう。みんな寄って」
何枚か写真を撮ってもらっていると、慌てたように杏也先輩が部室に入ってくる。
「なにをしているんですか。早く体育館に移動してください」
「ごめん、ごめん。つい撮影タイムが長引いちゃって」
「いこう」という汐里先輩の後に続いてみんなが部室を出ていく。わたしも後に続いて歩きだすと、杏也先輩の前で立ち止まる。
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