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「そうだね……」
だからわたしは汐里先輩に敵わない。わかってるけど、気持ちだけは負けたくないな。
「でもわたしは一生懸命でちょっと天然で構いたくなる花澄の方が好きだよ」
「それってなぐさめてくれてる?」
「まあね。とにかく次は花澄達の番だよ。頑張りなよ」
「うん。頑張る」
凪彩ちゃんとハイタッチをして幕のおりた舞台上に一歩ずつゆっくりと歩いていく。休憩を挟んでいよいよ演劇部の舞台が始まる。幕を挟んだ向こう側にはわたし達の舞台を観てくれるお客さんがいる。吹奏楽部の迫力のある演奏のよいんがまだ残る空間は熱気を肌で感じることができる。わたし達もこの熱気に負けないくらい誰かの記憶に、誰かの心に言葉や思いを伝えたい。
後5分で幕があく。舞台そでに戻ったわたし達は円になって片手を前に出していた。
「もうすぐで本番だよ」
「私達はカメラの横で観ています」
「はい。よろしくお願いします」
「先輩達も円陣に入ってくださいよ」
「いいのかな?」
「ぜひお願いします」
様子を見にきた那砂先輩達もわたし達の円陣に加わる。
「まずは杏也先輩、一言お願いします」
「私ですか?」
わたし達の顔を見渡してからふっと杏也先輩が笑う。
「悔いの残らないように精一杯、演じきってください」
「はい」と演劇部のみんなで返事をすると、順番に決意を口にしていく。最後にわたしの番がきた。
「ここからが演劇部の始まりだと思っています。まだ演劇部の存在を知らない人にも覚えてもらうために、誰かの背中を押せるように、ここにいるみんなで想いを届けましょう」
どうかわたしの想いも杏也先輩に届いて。やがて幕があがってまぶしいライトに照らされながら物語が始まる。
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