11.空ノ音の先に夢がある

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客席からの熱気に気負いしそうになったけど、やがて心地いい緊張感に変わる。この瞬間のためにわたし達は悩んで苦しんで泣いても努力することをやめなかった。どんなにつらくても諦めることはなかった。それは、この舞台上から見ることができる、特別な景色のためだったんだ。 わたしのひとり芝居が終わると、いよいよ土田さん扮する少年が出てくる。自然と目が撮影しているカメラを探す。カメラの横には、杏也(きょうや)先輩が立ってこちらを見つめている。見守られている安心感と、高鳴り続ける気持ちがわたしの熱をあげていく。 助けを求める少女のせりふの後に、土田さん扮する少年が舞台中央に現れる。客席をじっと見つめる土田さんが振り返り、少年のせりふを話し始める。やっぱり土田さん演じる少年が物語の中に加わると、一気に物語の世界に引き込まれる。お互いの演技に負けないようにと、意地がぶつかり合いながらも、お互いの演技を引き出し高め合う。土田さんとの掛け合いが心地いい。 みんなで紡いでいく物語がこのままずっと続けばいいのにと思うのに、気づけば物語はラストシーンへと向かっていた。土田さんはちゃんとおばあちゃんに気持ちを伝えられるのかな?きっと大丈夫だよね。わたしのせりふが終わり、土田さんがカメラをじっと見つめている。カメラの向こう側にいるおばちゃんに土田さんはどんな言葉を伝えるんだろう。おばちゃんに伝わってほしいと思いながら見守っていた。 「……ありがとう」 たった5文字の言葉だったけど、今にも泣きそうになってしまったのは、土田さんの表情や声音がおばあちゃんへの気持ちであふれていたから。 わたしと土田さんはいったん舞台そでに戻る。 「……土田さん」 「なんで泣きそうな顔してるの。たくさん言葉を考えたのに、結局ありがとうしか出てこなかった」 「でも十分、気持ちは伝わったと思うよ」 「次は部長の番だね。わたし達みんなに伝えたい言葉だっていってたけど、本当はいちばん伝えたい人がいるんだよね」 土田さんの言葉にうなずくと、「頑張って」と土田さんが返してくれた。その時が近づいてきて、心臓が飛び出しそうなほど緊張してきた。 「出番だよ」 「うん」
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