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2.ある疑惑と復活の条件
杏也先輩が立ち去った後の空気は一気に冷えこむ。まるで冷蔵庫の中で何日も放置された食材のような気分になる。わたしがなにかやらかしたのではないかと話す人、遠目で様子をうかがう人の視線にたえられなくてうつ向きながら掃除用具入れにほうきを戻すと、ひとつため息がもれる。
「ちょっと!アイス先輩自ら花澄に会いに来るなんて、なにやらかしたの?」
「いっぱいありすぎて……」
深いため息をはくわたしに、凪彩ちゃんが言葉を探すように天井をじっと見つめた後、わたしの肩をポンポンと叩いた。
「なるようにしかならないか」
「そうだね。いいわけなんてしないで全部話すよ」
「そんなにやらかしたの」
苦笑いする凪彩ちゃんにつられてわたしも苦笑いする。
「最悪たえられなくなったらアイドル先輩に助けを求めればいいよ。アイス先輩、アイドル先輩には甘々だからね」
「そうかな?」
「そうだよ」とまた肩をポンポンと叩かれた。杏也先輩が拓梅先輩に甘々には見えないな。少なくともわたしが観察している限りではという話だけど。それにどちらかといえば拓梅先輩にすら厳しい気がする。兄弟で言い合っていることも多いし。ケンカというよりは一方的に杏也先輩が説教をしているイメージしかない。どこが甘々なのかな?
なんて考えているうちに生徒会室と書かれた表札が見えてきて足を止める。かばんの持ち手を握りしめて深呼吸をする。扉をノックしようとした手を止めて前髪を整え、りぼんが曲がっていないか、制服にごみがついていないかと細かく最終確認をする。学校案内のパンフレットに載っているみたいにまるでお手本のような着こなしをしている杏也先輩だからわたしを見るなり身だしなみチェックをするかもしれないと思うとよけいに緊張する。
「それに身だしなみ月間だしね」なんてため息をつくと、意を決して扉をノックする。カチリと重たい音を立てて扉が開くと、そこには無表情な杏也先輩が立っていた。
「遅くなってすみません。1年B組の鈴音花澄です」
息継ぎもしないで一気にいうと、頭をペコリと下げた。
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