12.アイス先輩はあまくない。

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12.アイス先輩はあまくない。

鳴りやまない拍手が耳に残っている。舞台上から見る景色がずっと目に焼きついている。まだ残る熱気がわたしの体をふわふわと包み込んでいる。体育館の中央で目をつぶりながらひとり、たたずんでいた。わたしはあの時感じた感動と達成感をきっとこの先もずっと忘れない。 演劇部全員で舞台上に立ち、最後のあいさつをして幕がおりた。幕がおりた後も鳴りやまない拍手に誰も顔を上げることが出来なかった。土田さんと水川さんが泣いている。草野さんはやりとげたという達成感がにじむ顔でじっと舞台上の床を見つめていた。 「みんな……」 「やりとげたんだよね……わたし達」 「そうだよ。あたし達……やりとげたんだよ」 わぁっと歓声をあげながらみんなでぎゅうぎゅうになりながら抱き合い喜びを分かち合う。 「でもまだ足りない。うちらはこんなもんじゃないよね」 まだ興奮冷めやまないとばかりに草野さんが叫ぶからみんなで顔を見合わせると、草野さんに同意するようにうなずいた。 「わたしたち演劇部はこれからだよね。ここからがスタートだよね」 そう、わたし達は学園祭で舞台を披露することで、やっとスタートラインにつくことができたんだ。だからここからは、どんなことがあっても走るだけ。きっとわたし達ならどこまでも走り抜くことが出来る。そう信じてる。 舞台そでに戻るころには慌ただしく次の総合アクター部の準備が始まっていたから生徒会の人も混乱にそなえて、体育館やその周辺の警備に忙しくしていた。だからまだ杏也(きょうや)先輩と顔を合わせていない。これから始まる後夜祭の準備もあるだろうし、会えたらいいけど。今年は校庭の真ん中で打ち上げ花火をあげるらしい。体育館の外では、打ち上げ花火を観るために生徒が集まってきているみたいで、にぎやかな声が体育館の中にも聞こえてくる。 わたしも体育館の中から校庭を見回す。暮れかける空がオレンジ色と紺色のグラデーションを作っていた。夏休みは演劇部のことで頭がいっぱいだったから、花火やお祭り、海にプールと夏のイベントにひとつも行っていない。だから打ち上げ花火を実は楽しみにしていたんだよね。
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