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本当ならひとりじゃなくて……一緒に観たかったな。そんな思いを消し去るように左右に頭を振っていると、スマホから通知音がなる。凪彩ちゃんからだった。
【どこにいるの?アイス先輩が花澄を探してるよ】
杏也先輩が!?急いで凪彩ちゃんに返信しょうとスマホの画面を見つめていると、体育館の扉の方から物音がして顔をあげる。
「杏也先輩!?」
「やはりここにいましたか」
肩で息をしながら杏也先輩がわたしに近づいてくる。杏也先輩の足音と一緒にわたしの心臓も忙しく鳴り響いていく。
「わたしを……探してくれていたんですか?」
「私は最初からあなたならここにいると思いましたよ。しかしあなたのことです、予測不能な行動をする場合もあるかもしれません。ですから念のため探していただけです。それだけですよ」
杏也先輩は追い込まれるとじょう舌になるんだよね。おかしくて思わず笑いだすわたしを「なんですか?」といつものムッとした顔で見ている。
「実は杏也先輩のこと考えていたんです。だからまさか杏也先輩もわたしを探してくれていたなんてうれしいなって」
「なっ!?あなたはよくもそんな恥ずかしいことを口に出来ますね」
口元を手の甲でおさえながら、杏也先輩がわたしから視線をそらす。ほんのりと顔を赤らめる杏也先輩の顔に、トクンと甘酸っぱい音がなった。
「だって気持ちは言葉にしないと伝わらないじゃないですか。わたしは今……杏也先輩に……」
伝えたい想いがあふれすぎてこの気持ちをどうしたらいいかわからないよ。ダメだよ……傷つきたくない……でも自分の気持ちをわたしが否定しちゃダメだよ。
「少女のラストのせりふ……あの言葉に気づかされました。常に完ぺきでいなきゃいけない、完ぺきに見せなきゃいけない。呪いのような言葉で自らを追い込んでいたのは自分でした。それにその完ぺきさを他人にも押し付けることが私の中にある正義だったとしても、それを受け取る側がそう思わなかったらそれは傷にも怒りにも変わる。私は自ら敵を増やしすぎたのかもしれませんね」
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