2.ある疑惑と復活の条件

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「そうでしたか」 「去年の学園祭で上演されているのをみました。わたしもあの舞台に立ちたい。なにかを伝えたいって心を動かされました」 「うわぁ。きっとその言葉を聞いたらまりねぇ喜びそうだね」 「そうですね」 拓梅(たくみ)先輩の言葉に同意すると、杏也(きょうや)先輩が微笑む。あまり見せることのない杏也先輩の柔らかい雰囲気に思わず胸がドキリと音を立てた。まただ。普段は無表情で難しい顔をしているのに、拓梅先輩とふたりでいるときのリラックスしたような顔も、たまに見せる杏也先輩の柔らかな笑顔にもいちいち心臓が反応してしまう。普段のイメージにないギャップにきっとびっくりしているだけだと思うけど……おかしいな……胸が焼けるように熱い。 「まっ、まりねぇとは?」 「オレたちの兄さんのみおにぃの奥さんだよ。この学園の卒業生なんだよ」 「義姉さんは演劇部を作った人でもあり、あなたが心を動かされた『空ノ音(そらのね)の先に夢がある』の話を考えた人です」 拓梅先輩の情報を補足するように杏也先輩が言葉を付け足す。那砂(なずな)先輩たちの身近な人が演劇部を作ってくれて、あのお話を考えてくれた人だと思うと、急に那砂先輩たちを身近な存在に感じてなんだかうれしいような、くすぐったいような気持ちになる。 「だからあなたの気持ちはうれしいです。演劇部に代々伝わり、毎年披露されるお話です。だから今年も学園祭で演じてほしいという気持ちはあるんです」 「総合アクター部に上演してもらえるように交渉したけど断られちゃったんだよね」 「私としても演劇部がまた立ち上がり、上演してくれるのが好ましいと思っています」 「それならお願いです。演劇部を作りたいです。お願いします」 頭を下げるわたしの頭上で戸惑う気配を感じる。それでも頭を上げないわたしに拓梅先輩の「頭を上げて」というあせるような声が聞こえてくる。 「わかりました。とりあえず頭を上げてください」 ゆっくりと頭を上げると、困ったようにため息をもらす杏也先輩がわたしを見つめる。 「仕方がないですね。演劇部(仮)でどうでしょうか?」 「(仮)とは?」
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