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『いつか、いつかわたしも夜空に光る星のように暗闇を照らす存在になりたい。でもこの想いはどこからくるの?わからない。わたしはこの気持ちを表す言葉を知らない』
ライトに照らされ紡ぎ出されるやさしくもあたたかい世界に、わたしは息をのむ。学校の行事でしか演劇をみることもないし、小学生のときの学芸会でしか劇をしたことがない。学芸会だって一言せりふがあるだけだった。だから身近に演劇というものがあったのにそれに触れる機会は少ない。だからこんなにも人を心をひきつけるものだって知らなかった。
終演してもわたしはその場から立ち上がることが出来なかった。まだ夢の中にいるように頭がふわふわとしている。
「大丈夫?」
声のする方へ顔を向けると、さっきまで舞台で演じていた人がわたしを心配そうに見ていた。
「はい……なんか感動してしまって」
「うれしいな。ありがとう。よかったらパンフレットもらってくれる」
差し出されたパンフレットを受け取ると、『空ノ音の先に夢がある』と上演していた演目のタイトルが目にはいる。
「素敵なお話でした」
「演劇部に代々伝わる演目なの。学園祭で必ず披露するんだよ」
わたしも伝えたい。やさしくてあたたかくなるこのお話を伝えていきたい。
「でもね……」
「ありがとうございました。やりたいことが決まりました」
いすから立ち上がり、頭を下げると体育館の外へ駆け出す。わたしのやりたいことが見つかった。このときはそう思ったのに。
新入生部活紹介の日、わたしは現実をつきつけられる。
「どうして……演劇部がない」
配られた部活紹介の資料を何度も確認したのに演劇部の文字がみつからない。
「花澄は演劇部に入りたかったの?」
「そうだよ。だから空ノ音学園に入ったんだよ」
部活紹介の資料を握りしめながら青ざめているわたしに声をかけてくれたのが、小中と同じ学校で幼なじみの葉山凪彩ちゃんだ。小中と吹奏楽部でトランペットを担当していた。だから凪彩ちゃんも全国大会にも出場経験がある空ノ音学園の吹奏楽部へ入部するために入学した。
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