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結局考えもまとまらないし、うれしさのあまり台本を何度も読み返しちゃったから今朝は寝不足で頭が重い。あくびをかみ殺しながら歩いていると、正門のアーチが見えてくる。今朝も風紀委員と生徒会の人が立っているかもしれない。昨日の今日で杏也先輩と顔を合わせるのは気まずい。
前を歩く人たちが一斉に制服を整えだした。やっぱり今日も杏也先輩は身だしなみチェックのために立っているんだ。そう思うと寝不足の頭がさらに重くなる。
「おはよう」という拓梅先輩の明るい声が聞こえてきた。少しうつむき加減に那砂先輩たちから距離をとりながら正門のアーチをくぐる。
「あっ。花澄ちゃんおはよう」
わたしを見つけると、下の名前を呼びながら拓梅先輩が大声であいさつしてくるから、一斉に視線がわたしに集中する。
「おっ、おはようございます」
「昨日は……」
「あーっ!」
次にどんな言葉が出るか予測できて思わず大声を上げながら拓梅先輩に駆け寄る。
「どうしたの?」
「あの……」
周りの視線が痛いし、怖いなんていえなくて押し黙るわたしを見下ろす視線に気づいて見上げる。
「おはよう……ございます」
視線は拓梅先輩の隣に立つ杏也先輩のもの。
「おはようございます。ちょっといいですか……その……鈴音、さん」
「はい」
今度は杏也先輩に校庭の隅に連れていかれるわたしに同情するような眼差しが集まる。きっと杏也先輩の説教が今から始まるとみんな察してるんだ。また怒られるのかな?昨日のわたしの態度が悪かったのかな?と杏也先輩の後をついていきながらぐるぐると頭の中で考えていると、急に立ち止まる杏也先輩の背中におでこをぶつける。
「すみません」
おでこをさすりながらも慌てて謝ると、杏也先輩がため息をつきながら振り返る。お説教が始まる合図のように思えて目を伏せた。
「寝不足ですか?」
「えっ?はい」
最初の言葉が予想外すぎて顔を上げると、相変わらず無表情で感情の読めない顔で杏也先輩がわたしを見ている。
「昨日のことですが……」
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