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ついにお説教が始まったと体を強ばらせながら次の言葉を待っているに、杏也先輩はなにかを考えるように押し黙っている。不思議に思って首を傾けて見ていると、杏也先輩が咳払いをする。
「私がその……副会長を……」
「あーっ。あの話ですね」
杏也先輩がいいたい言葉はだいたいわかる。勘違いして勢いでいっちゃったとはいえ、副会長から引きずりおろそうとする人物がいるとわたしに告白してしまったことだと察した。お説教ではなさそうでホッと胸をなでおろす。
「私の勘違いとはいえあなたに関係のない話をしてしまいすみません」
「気にしてませんよ」
まさか杏也先輩から謝られるとは思わなかったから慌てて両手を振るわたしを目を細めた杏也先輩がじっと見てくる。
「気にしてください」
「えっ?」
「昨日聞いたことは……内密にお願いします」
口の前に人差し指を立てる杏也先輩にドキリと心臓が音を立てる。普段の杏也先輩から想像できない行動に心臓がうるさいくらい音をならしている。顔がのぼせるほど熱くなっていくからごまかすように両頬を手で包んだ。
「これで私の弱みを握れたなんて思わないでくださいね」
いつもの冷めた口調に戻る杏也先輩をきょとんとしながら見つめると、舞い上がった熱が一気に冷めていくのがわかった。
「おっ、思ってません!いわないから安心してください」
頬をふくらませながらきびすを返して歩き出す。今わたしはどんな顔をしてるんだろう。いつもと違う杏也先輩に思わずドキドキしちゃった。なんて自分を認めたくない。やっぱり冷たくて怖くて……いじわるだ。少しでも舞い上がってしまった自分が恥ずかしすぎる。それに周りからの視線が痛いから顔を上げられない。
視線から逃げるように教室に駆け込むけど、よくも悪くも今朝のわたしは目立ちすぎたのかもしれない。わたしに待っていたのは、クラスメイトの質問攻めと拓梅先輩のファンクラブに入会している女子からのさぐるような視線だった。
わたしの演劇部復活への道がさらに険しいものになっていく予感がした。杏也先輩の予言が当たってしまうのだけはなんとしてもそししたい。
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