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3.困らせたいワケじゃない
まずは部員の勧誘活動をしなくちゃ。最低でも4人集めないと生徒会から提示された条件をクリアできない。ていっても部活紹介は終わっちゃったし、演技をしたい人はきっと総合アクター部に殺到する。どうやって演劇部の魅力を伝えるか……なにかいい方法がないか考えながら廊下を歩いていると、正面玄関前にある部活掲示板が目に入る。
部員募集のポスターがあれば、大会優勝やコンクール入選の新聞が貼ってある。どの部活も華やいだ雰囲気があるけど、やっぱり掲示板の真ん中に貼られた総合アクター部、入部オーディションのポスターが一際目立っている。演劇部にとってはライバルだよね。でも王者の貫禄があるからわたしじゃ相手にもされないかも。そう考えてしまうとひとつため息がもれた。
「掲示物募集?」
掲示板の右下に貼られた掲示物募集の貼り紙を見つける。あまりにも目立たない場所だからどの部活もその場所を確保していないみたいだ。
「目線下だし、目にも止まらない場所だもんね」
でももうこの場所しか残っていない。ということは、この場所にしか演劇部の部員募集のポスターを貼ることができない。廃部している演劇部が復活することを知ってもらう必要があるのに、いちばん目立たない場所しかあいていないなんて。
「ようは目立てばいいんだよね」
くじけそうになる気持ちをふるいたたせるようによし!と気合いを入れ直して教室に戻る。
目立つポスターさえ書けばいい。そう思ったけど絵には自信がない。だからって文字だけ大きく書くのも……ありといえばありだけど、出来ればポスターから演劇部の雰囲気が少しでも伝わってほしい。かばんから台本が入ったクリアファイルを取り出す。
『空ノ音の先に夢がある』のラストはほっこりと温かい空気を残しながら幕がおりる。だからその雰囲気を伝えたい。昨年見た先輩たちの演技を思い出しながら絵を描いていく。少女の希望に満ちた涙や夢や希望という感情を抱えながら眠る森の妖精のはかない雰囲気。ストーリーが伝わればいいな。
「できた……かな?」
本当にわたし絵心がないとがっくりと肩を落としていると、凪彩ちゃんが忘れ物を取りに教室に戻ってくる。
「花澄なにやってんの?」
「……なにも」
思わずポスターを裏返しにして机に伏せる。
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