3.困らせたいワケじゃない

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「部活掲示板の、みっ、右下のあいているスペースに貼ってください」 ポスターを持つ右手を震わせながらも目を細めて笑うのをこらえているみたいだけど、口はへらっとすでに笑っている。そこまで笑わなくてもいいのに。 「恥ずかしいから貼りません」 「そっ、そんなこと……」 手の甲で口元をおさてあきらかに笑いをこらえている杏也(きょうや)先輩からポスターを取る。 「もしよかったらあげます。元気がないときにでも見てください」 長机の上にポスターを置くと、「失礼します」とムッとした顔で生徒会室を出ると、かべにもたれかかってしゃがむ。 一度笑いのツボにはまっちゃうと杏也先輩でもあんなに笑うことがあるんだ。いつもは無表情だし、怖いし、お説教が長いし。わたしのこといつもあきれたような顔で見てため息をつくくせに……あんなに顔を真っ赤にしながら笑うなんて……。もちろん絵をバカにされているみたいで悔しかったけど……それ以上にドキドキした。 「しかも笑顔がかわいいなんて思っちゃったじゃん……反則だよ」 わたしの胸にコロコロと表情を変える杏也先輩がたくさん積もっていく。胸の真ん中にたまっていく杏也先輩がわたしをドキドキと苦しくさせるのにぽかぽかと温かい気持ちにさせてくれる。 「なんでかな……」 こんな感覚、わたしは知らない。だからわからないけどふわふわと今にも飛んでいきそうで心地いいのに急に怖くなる。対照的な感情が波のように押し寄せてくるから逃げ出したくなる。 ふわふわと夢の中にいるような足取りで部室として使えるようになった教室へ向かう。教室の前につくと、旧地域相談室と書かれていた。どうやら外部のイベントや行事用に使われていた教室らしい。早速もらった鍵を使って教室を開けると、じめっとした空気と一緒にほこりが舞う。制服の袖で口元をおおいながら中に入って電気を点けるけど、のどがかゆくなって小さな咳が出る。 1階のいちばん端にある使われなくなった教室は陽も当たらないし、じめじめとカビのような臭いがする。生徒会と記入された段ボールがたくさん積み上げられていて、なにかの行事に使われたようなベニヤ板や手作りの看板が散乱している。 「これをひとりで掃除するの?」 『ひとりでやるには大変かもしれませんがしっかり掃除してくださいね』という杏也先輩の言葉が頭をよぎる。
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