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「あの……」
昨日あれだけ練習したのに、いざ杏也先輩を前にすると言葉が出ない。じっと見つめるわたしの視線も気にしないで登校してくる人の流れに目を配っている。
「なんですか?」
目線は人の流れを見ながらも冷たい声が上から降ってくる。
「ごっ、ごめんなさい」
自分でも驚くほど大きな声が出てしまって恥ずかしさのあまりうつむきながら頭を深く下げた。
「なっ、なんなんですか!?」
「じゃなかった。ありがとうございました」
「ちょっとこっちに来て下さい」
腕をつかまれて引っ張られるように校庭の隅に連れていかれる。
「あの……」
「朝からやかましい人ですね。あなたと私がなにかあったと誤解されるじゃないですか」
「……すみません」
慌てたように口元に手の甲を当てている杏也先輩をじっと見つめながらもいっている意味がわからなくて首を傾げていると、咳払いして杏也先輩が口を開いた。
「あんなに大勢の前で大声で謝るなんてなんのつもりですか?私がなにかしましたか?」
「そんなつもりじゃ……ただ昨日のことを謝りたくて」
「気にしていません」
「わたしが気にしています。本当はほめてもらえてうれしかったのに、恥ずかしくて……その……」
自分でもなにをいっているのか、なにを伝えたいのかわからなくなってきた。どうしてこんなにも胸が苦しくて息ができないんだろう。耳の奥まで心臓の音がうるさい。ただ気持ちを素直に伝えたいだけなのに……こんなにも難しいことだっけ?頭がうまく回らなくて少し混乱している。
「私の普段のあなたへの態度がいけなかったのでしょう。だから仕方がないですね。気にしていません」
「でもうれしかったです。掲示板のポスターも」
「あーあ。あれですか。あの前を通る度に笑いをこらえないといけませんね」
「やっぱり笑ってたんじゃないですか」
「ふっ、笑ってませんよ」
「笑ってるじゃないですか」
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