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笑いをこらえるように口元を手の甲でおさえる杏也先輩を見てわたしまで吹き出すように笑ってしまった。よかった。笑ってくれて。微かに頬をゆるめながら笑う杏也先輩を見上げると、ドクンと心臓がひとつ音を立てた。じわじわと熱くなっていく胸がくすぐったくてスカートを握りしめた。
「杏也先輩……いつも助けてくれてありがとうございます。杏也先輩のやさしさは分かりづらいけど……でも……」
自分でも止められない言葉が自然ともれだす。さらにスカートを握りしめながら心にしまうわたしのまだ知らない感情が杏也先輩に言葉を伝える。
「不器用な杏也先輩のやさしさ……嫌いじゃないですよ」
嫌いじゃない?それって……嫌いの反対の感情?気づいてしまった言葉の意味に顔が熱くなっていく。杏也先輩は今……どんな顔してるの?怖くて杏也先輩の顔が見れない。
「それだけです……失礼します」
杏也先輩と目線を合わせられなくて、うつむいたままきびすを返して逃げ出すように駆け出した。校舎に入ると、熱くなっている頬を両手で隠すようにして包み、その場にしゃがみこむ。
わたし、なにやってるんだろう?わたしじゃないみたい。自分の行動を制御できない。杏也先輩には恥ずかしいわたししか見せてない気がする。わたし……どうしちゃったんだろう?
自分の教室に入ると、すでにわたしが杏也先輩に大声で謝っていたことが話題になっていた。知らない人がいないというほど噂が広まって、ひそひそと皆がわたしを見て話をしている。
「居心地悪いな」
「仕方ないよ。あのアイス先輩を悩ませる問題児現れるってみんな噂してるんだから」
「問題児って」
凪彩ちゃんの言葉に机に突っ伏してため息をつく。
「あのアイス先輩がここまで構うってことはそうとう手を焼いているんだろうってさ」
「否定はしないけど、おおげさだよ」
「実際なにをしたワケ?」
「なにって……なんだろう?いつも説教される」
「噂は間違いじゃないってことか」
「そんなことないよ。たまにほめてもくれるし、分かりづらいけどやさしいよ」
改めて言葉にすると恥ずかしくて顔が熱くなっていく。
「わたしのこと嫌いなのかな……」
自然ともれた言葉がチクチクと胸を刺して痛い。
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