3.困らせたいワケじゃない

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凪彩(なぎさ)ちゃんの言葉に足が止まる。逃げ道がないか辺りを見回しても隠れる場所がない。このままだと杏也(きょうや)先輩とすれ違っちゃう。周りにいる人たちも交互にわたしと杏也先輩を見ながらひそひそと話している。これ以上杏也先輩に迷惑をかけたくない。近づく杏也先輩と一緒に心臓の音まではやくなっていく。早く隠れたい。思わず手に持っていた教科書で顔を隠しながら息をひそめる。近づく杏也先輩の足音に合わせるように心臓が鳴り響いている。 「なんですか、それは?」 「……」 不機嫌そうにわたしに声をかける杏也先輩に早く行ってくださいと心の中で呟きながら息をひそめる。 「無視ですか?」 ごめんなさいと何度も心の中で謝る。わたしだって無視したくない。むしろ杏也先輩とたくさん話したい。でも迷惑はかけたくない。ただでさえ杏也先輩を副会長から引きずりおろそうとする人がいるから大変そうなのに、今度はわたしと関わることでさらに問題を増やしたくない。困らせたいワケじゃないのに……なんだか悔しいし悲しいよ。ぐるぐると思いをめぐらせていると、杏也先輩がため息をつくのがわかった。 「噂なら……気にすることはありませんよ。あなたが気にやむことはありません」 わたしの横を通りすぎる杏也先輩を振り返り、後ろ姿を見つめた。わたしの心の中を読んだの?わたしの心を見透かしたような杏也先輩の言葉が今はなんだか悲しい。遠くなっていく杏也先輩の後ろ姿をいつまでも見つめていた。
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