4.総合アクター部、入部オーディション

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こんな時でも拓梅(たくみ)先輩は話題を持っていってしまう。華やかな表で輝くのはいつだって拓梅先輩。ひっそりと影のように裏で光を見守っているのはいつだって杏也(きょうや)先輩。今だってにこにこと手を振りながら歩く拓梅先輩の少し後ろをついていくように歩いている。まるで自分は華々しく輝く拓梅先輩をサポートするために影に隠れてひっそりと存在しているのが当たり前だと主張しているみたいだ。双子の片割れじゃなくて兄のために存在していると思っていないか心配になる。杏也先輩は杏也先輩なのに。 なんでこんなことを思ってしまったのかわからない。でも杏也先輩は言葉がきついし、なんでもストレートに物事をいうけど、それが本当に杏也先輩の言葉なのか、本当のことをいっているのか、時々わからなくなるときがあるからかもしれない。本当の杏也先輩ってどんな人なんだろうって思うときもあるけど、わたしの考えすぎかもしれないと思い直して、視線を舞台上に戻した。 審査員が着席すると、入部オーディションの開始を知らせるアナウンスと一緒に舞台上をライトが照らす。1年生から順に1次審査の演技テストが始まる。それまで歓声が響いていた体育館の中がしんと静まり返り、息づかいだけが聞こえてくる。魂をけずるような演技に皆が息をのんで見つめている。 誰が受かってもおかしくないほどの実力を持ちながらもこの中の数人しか受からないなんて……去年見た学園祭での演劇部の演目がよみがえる。刺激をもらって心が高まっていく。わたしも早く演じたい。早く舞台に立ちたい。心地いい心臓の高鳴りと熱にあふれそうな思いがたくさん積もっていく。 1次審査、すべての演技が終わった。ここで審査員の話し合いが始まるから休憩が挟まれる。この話し合いの後に1次審査通過者が決まる。立ち上がる足音が遠くに響く。まだふわふわと熱が冷めないから頭がうまく回らない。手元に持っていたノートに視線を移す。 わたしなりに学園祭で演じる予定の演目の配役を考えながら演技の特徴と一緒に名前をメモしていた。みんなきっと総合アクター部に入部するためにたくさん努力したと思うから全員受かってほしいなと願う反面、もし入部できなかったら演劇部の部員として迎えることが出来て、学園祭で一緒に演じることが出来るかもしれないと思うと期待もしてしまう。真逆の感情が交互に押し寄せる。
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