4.総合アクター部、入部オーディション

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結局、騒ぎが収まりそうもないから、総合アクター部の2次審査は後日行われることになった。拓梅(たくみ)先輩の周りには心配した女子生徒がたくさん集まっている。怒っている人、泣いている人を拓梅先輩が笑顔でなだめている。その横を杏也(きょうや)先輩が通りすぎるから拓梅先輩が話しかけようとしてちゅうちょしている。 その光景を見ていたわたしの横を杏也先輩が通りすぎるから、思わず声をかけるけど、自分に構ってほしくないという空気をまといながら杏也先輩がゆっくりと振り返る。 「杏也……先輩」 必死に絞り出す声で杏也先輩を呼ぶけど、目も合わせてくれないまま体育館を出ていってしまう。わたしは杏也先輩の傷をいやすための言葉を持っていない。それが悔しい。わたしになにが出来るの? 新緑の風が体育館の中へゆっくりと入り込む。わたしのほほをやさしくくすぐるから、まるでわたしをなぐさめてくれているみたいだ。心を軽くしてくれる風に、わたしはしばらく動けずにいた。
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