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5.すれ違う気持ちと芽生え始めた気持ち
一度は部室に戻ったけど、もやもやとする気持ちが体育館に足を向かせた。体育館の中は総合アクター部の部員の人がいすの片付けを終えて、すっかり広々とした空間に戻っていた。それでも今日起きた悲しい出来事のよいんが体育館の中を包み込んでいるように見える。体育館に残って総合アクター部の部長と話し込んでいた拓梅先輩が暗闇の中にひとり、たたずんでいる。少しだけ開いた扉から一本の道筋のように太陽の光が体育館の中を照らしている。その道は舞台上に腰をかけている拓梅先輩へと続いていた。
「拓梅先輩」
「……花澄ちゃんか。今日はお疲れさま。オレたちのサプライズどっきり……びっくりしたでしよ」
おもいつめたようにうつむく顔を上げた頃には、いつものにこにこと笑顔をつくる拓梅先輩に戻っていた。サプライズどっきりなんてうそついてまで心配させないようにしてくれている拓梅先輩だけど、それがわたしには悲しくて胸がざわざわとする。ゆっくりと拓梅先輩に近づくと、舞台上に座る拓梅先輩を見上げることしか出来なかった。
「きょーにもサプライズどっきりしちゃったからなんか生徒会室に戻りたくなくてさ。戻っても戻らなくてもどっちにしてもきょーの説教は長いけどね」
無理やり笑う拓梅先輩にどんな言葉をかけていいかわからずに押し黙っていると、ためこんだ気持ちがもれだすように拓梅先輩が悲しそうに呟いた。
「……頼られたいんだけどな」
「きっと杏也先輩だって拓梅先輩を頼りにしています。だから拓梅先輩を全力でサポートしているんだと思います」
「それがきょーなんだ。小さい頃から変わらないんだよ。きょーの方がオレなんかよりなんでも完ぺきにできちゃう。でもその分無理していないか心配になるんだ。だからオレのことも少しは頼ってほしいなって。なのにきょーは黙って笑っていればいいなんて、ひどいと思わない」
頬をふくらませながらムッとしている拓梅先輩はどこか無理して明るい口調で話してくれているようにも見える。
「杏也先輩は甘えるのが下手だし、自分の弱いところを見せたくないのかもしれません」
「そうなんだよ。でもオレの方がお兄ちゃんだよ。オレだってたまにはきょーにかわいく『助けて!兄さん』っていわれたいよ」
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