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「やっぱりなにかあったのね。生徒会室に戻ってきた杏也がいつもより怖い雰囲気だったからわたしも逃げてきちゃった」
わたしの横に立つと、汐里と拓梅先輩に呼ばれた人が拓梅先輩に手を差し出す。
「今回は兄弟げんかが長引きそうね」
「けんかなんて、してない」
汐里さんの手をつかむと、拓梅先輩が舞台上から降りてズボンの後ろを払っている。
「それじゃいつものように杏也が拓梅を構いすぎて拓梅がすねてるのね」
「正解!さすが汐里」
クスクスと笑うふたりを見ていると、汐里さんがわたしの視線に気づいてじっと見てくる。その顔があまりにもきれいだからつい見とれてしまう。
「花澄ちゃんも知っているでしょ?生徒会の会計でオレたちとは幼稚園の頃からずっと一緒で幼なじみの椿汐里だよ」
入学式の後に生徒会が紹介されたときに、那砂先輩たちと一緒に舞台上にいた人だと思いだす。確か大人っぽくてきれいな先輩だからわたし達新入生の憧れの先輩でもあるし、知らない人はいないというくらい有名な人だ。那砂先輩たちと幼なじみだからこんなに親しげなんだと納得した。
「花澄ちゃんってことはあなたが噂の花澄ちゃんね」
「どんな噂かわかりませんが1年の鈴音花澄です」
ぺこりと頭を下げて顔を上げると、探るような目でわたしを見ている。
「あなたは敵か味方か、どっちかな?」
意味がわからずに固まるわたしの横で拓梅先輩が「味方だよ。大味方だよ!」と慌ててフォローしてくれている。
「そうなんだ。でも杏也を傷つけないでね。わたしが許さないから」
汐里さんの言葉に胸がずきりと痛む。なにも言い返せない自分にもやもやが積もっていく。
「それじゃあねっ。花澄ちゃん」
拓梅先輩の腕を引きながら汐里さんが体育館を後にする。拓梅先輩がわたしに振り返ってなにかいっているけど、声が遠くで聞こえるからわたしの耳には届かない。体がふわふわとして地に足がついていないみたいでなんだか怖い。このままどこかに風と一緒に飛ばされそう。
「そっか……ちゃんと杏也先輩を助けてくれる人が拓梅先輩以外にも……身近にいるんだ」
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