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「私を見つけると小動物のように近づいてきてうるさいほどよく鳴くのにおかしいですね。変なものでも食べましたか」
「しっ失礼ですよ。杏也先輩の中でわたしってどんなイメージなんですか」
「そのままをお伝えしたつもりですが。伝わりませんか」
手の甲で口元をおさえながら笑うのをこらえている杏也先輩はいつも通りだ。
「そんなことより拓梅先輩とは仲直りできましたか?」
「あなたには関係のないことです」
またこの感じだ。自分は言いたいことをいってわたしの感情をたくさんかき乱すくせに、自分の心に触れようとする人を拒むように急に心を閉ざす。何度もノックをしても、その扉は絶対に開けてくれないんだ。でも余計なお世話だよね。杏也先輩を理解してくれる拓梅先輩だって、汐里先輩だっている。わざわざ手がかかるだけの後輩に心なんて開いてくれないよね。
「余計なことをいってすみません。急いでいるので失礼します」
頭をぺこりと下げると、きびすを返して駆け出す。今の言い方はかわいくなかったかな?でも気持ちに余裕がなさすぎてどう返していいかわからなかった。杏也先輩のことになると落ち込んで勝手にイライラして、自分じゃないみたいになる。それが怖いし、こんな自分に自分自身が嫌いになりそうだ。
どうにか気持ちを切り替えると、1年B組の教室の前にきた。演劇部に勧誘予定の3人はみな、このクラスにいる。
「すみません。土田さん、水川さん、草野さんを呼んでもらえますか」
近くにいた子にお願いすると、3人は元々仲がいいのか机を囲っておしゃべりをしていたようで、教室の入り口にいるわたしを見ると、3人一緒にわたしの元へくる。
「急に呼び出してごめんなさい」
「もしかして演劇部への勧誘?」
髪の毛をショートにして少し低い声でわたしに尋ねてきたのが土田さん。
「そうです。なんでわかったんですか?」
「それは……あなたが有名だから」
えんりょしがちに答えを教えてくれたのがアニメのヒロインのようなかわいい声をしている水川さん。
「有名だなんて……誤解ですよ」
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