25人が本棚に入れています
本棚に追加
/126ページ
生徒会室へと続く廊下を深呼吸しながら歩いていると、生徒会室へと入っていく汐里先輩を見かける。誤解されたままなのに、汐里先輩とも顔を合わせるのが気まずいと思うと、生徒会室の前で足を止めてしばらく動けないでいた。ふと扉が少し開いているのに気づいてなんとなく中をのぞいてみる。
「最近はけんかしてない?」
「兄さんとじゃけんかにもなりませんよ。汐里はよくわかっているでしょ」
杏也先輩が汐里先輩を呼び捨てにすることに驚くと同時に胸がずきりと痛むから手のひらを強く握りしめる。
「でもたまには甘えてあげてね。『俺は立派な兄ちゃんになる』ってはりきっていたから」
「まったく。兄さんもかわいい人ですね」
「そのまま伝えてあげたら」
「いいませんよ。恥ずかしい」
「拓梅と杏也の兄弟愛みたいな」
「茶化さないでください。まったく汐里は変わりませんね」
わたしが見たこともない笑顔を汐里先輩にだけむけている。かべを作らなくていい関係の汐里先輩が相手だと、こんなにも空気が違うんだ。楽しそうだし、笑った顔なんていつもの難しい顔じゃなくて、少し幼く見えるのは、心の底から笑う本当の杏也先輩の顔に見えるからかもしれない。
見ていられなくて顔を背けると、中からわたしの名を呼ぶ声が聞こえてきた。
「花澄ちゃんだっけ?入ればいいのに」
汐里先輩の言葉に杏也先輩が生徒会室の入り口に視線を向けるから目が合う。視線にたえられなくて顔を背けた。
「なにをしてるんですか。入るなら早く入ってください」
「しっ、失礼します」
スカートを握りしめる手が汗ばむ。緊張しているのか、それとも意外にショックだったのか自分の気持ちがわからなくてふわふわとして頭が回らない。
「今日はなんのようですか?」
「おじゃましてしまいすみません」
「どういう意味ですか」
「そのままの、意味です」
わたしのとげのある言葉に杏也先輩がムッとしているのがわかる。わたしだって久しぶりに杏也先輩に会えたからうれしいはずなのに、思っていることと反対の感情がかわいくない言葉をわたしにいわせる。
最初のコメントを投稿しよう!