5.すれ違う気持ちと芽生え始めた気持ち

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「それで、用件は」 あきれたように杏也(きょうや)先輩がため息をつくから、くちびるをかみしめながら頭を下げて演劇部の入部届けを手渡す。 「5人集まりました。正式に演劇部を認めてください」 「わかりました」 わたしから全員分の入部届けを受け取ると、生徒会のはんこを押してくれている。 「正式に杏也をつぶすための演劇部が発足しちゃったね。自分ではんこを押した感想は?」 「怒りますよ、汐里(しおり)」 「この子を信用してるの?」 汐里先輩の言葉に杏也先輩が押し黙る。 「わたしは……杏也先輩が副会長でよかったって思っています。だから噂はうそです。ましてや拓梅(たくみ)先輩に近づくために杏也先輩を利用なんてしていません。本当に迷惑をかけてしまいすみません」 「あなたらしくないですね」 「これでも精一杯なんです」 涙がじわりと目元を熱くするから、くちびるをかみしめながら泣くのをこらえながらうつむく。 「私に迷惑をかけるのがあなたでしょ?今さら気にしないでください」 「なんで……なんでごまかすんですか?傷ついてるなら傷ついてる、わたしがじゃまなら……ちゃんといってください」 わたしなんでこんなこといってるんだろう。これじゃ杏也先輩を責めているみたい。違うのに……もっとわたしのことも信用してくれて、頼ってほしいのに。汐里先輩に向けるような本当の杏也先輩でわたしにも接してほしいって思っちゃうのは、汐里先輩に嫉妬してるからだ。こんなわたしいやだ。 「あなたはバカですか。私のことより自分のことをちゃんと考えるべきです。あなたの目標はなんですか?周りに流されて自分を見失わないでください。こんなことよりあなたにはやるべきことがあるはずですよ」 のぼせあがる頭が杏也先輩の言葉で冷静になっていく。 「あなたの目標だった演劇部が正式に活動を許可された。やっとスタートラインに立てたんです。ここからはあなたたち次第なんですよ。余計なことに踊らされて目的を見失っているのなら今すぐ学園祭の上演を辞退してください」
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