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「そこまでいわなくても。とりあえず頑張って。わたしも誤解してたみたいでごめんね」
首を横に振ると、息を細くはきながら顔を上げる。
「杏也先輩の言うとおりです。わたしの思いは舞台上で伝えます。だから見ててください。必ず演じきってみせます」
「期待してますよ」
「はい。失礼します」
生徒会室を出て扉を閉めた瞬間に涙が自然とこぼれる。杏也先輩の前で泣かなくてよかったと、安心する気持ちと、気づかないようにと見てみぬふりをしていた気持ちが爆発してしまったことに戸惑う気持ちが一気に押し寄せてくる。
「どうしたの?泣いているの」
声がして顔を上げると、拓梅先輩が心配そうにわたしをのぞきこんでいた。
「泣いてないです」
慌てて涙をふいたけど、ごまかしきれなくてうつむく。
「きょーにいじわるいわれた?」
「杏也先輩がそんなことするはずないですよ」
「オレもそう思ったけど一応ね」
よかった、よかったとくりかえしうなずく拓梅先輩を見て思わず笑みがこぼれる。
「実は、演劇部が正式に認められたんです」
「そうなの。おめでとう」
「ありがとうございます。だからうれしくて少し泣いちゃいました。恥ずかしいからひみつですよ」
「そっ、そっか。わかった」
信用してくれた拓梅先輩をだますような嘘をついてごめんなさいと、心の中で謝る。
「それじゃ。失礼します」
「頑張ってね」
心苦しい気持ちも積もらせながら演劇部の部室へ向かう。もう生徒会と関わるのは学園祭のときだけだと思うと少しほっとしてしまう自分がいた。杏也先輩に宣言した通り、わたしの思いは学園祭の舞台上で伝える。それまでは芽生え始めたこの気持ちに、今度こそしっかりとかぎをかけて閉じ込めておこう。わたしの夢が叶ったその後に杏也先輩への気持ちを改めて確かめてみよう。それまでは静かに眠っていてほしい。
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