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確かに阿左美先輩の意見は一理ある。現メンバーの演劇部として、初めての舞台お披露目公演になる。なんでも最初がかんじんだし、正直だれも集まらなかったらどうしょうという不安もあった。それなら満員の観客の中で演じられるということは、演劇部にとってはチャンスでもある。でもみんなはどう思うんだろう?あきらめたように笑うかな?それとも満員の観客の前で演じることができるから楽しみかな?
押し黙るわたしに、「どうかな?」と阿左美先輩がさらに聞いてくる。
「僕の考え、どう思う?那砂杏也くん」
急に話を振られて杏也先輩がキーボードを打つ手をとめてため息をつく。
「……そうですね。集客が見込めない演劇部にとってはいい提案だと思います。ただプレッシャーに押し潰されないで最後まで心が折れなければいいのですが」
「相変わらず厳しいね。それじゃ僕の考えに賛成って思っていいんだね」
「そうですね」
あっさりとした口調で返すと、パソコンの画面に目線を落としてまたキーボードを打ち始めている。杏也先輩にしては物事を軽く考えすぎているようにも見えるし、考えなしに同調しているみたいに見えて違和感を覚える。まるで自分はあくまでもサポートする側だから関係ないといいたげな態度だ。
「てことで、那砂杏也くんもこういってることだし、どうかな?」
じっと杏也先輩の考えをさぐるように見ているわたしの視線になんて気づいていないといわんばかりに、まったくパソコンの画面から顔を上げてくれようとしない。
わたしがうなずかないときっと先に進めないと思って、最終日の昼公演で上演することを決めた。この後、部室に戻ってどう説明しようといいわけばかりを考えてしまう。
会議が無事に終わって解散するなか、資料をまとめながら杏也先輩の様子をうかがっていた。汐里先輩が顔を近づけながら一緒にパソコンの画面を見ている。胸がずきりと痛んですぐにでもこの場から逃げたいという気持ちがわたしを急かす。
「おっ。お疲れさまでした」
「お疲れさま」
ホワイトボードの文字を消しながら拓梅先輩が振り返る。
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