6.アイス先輩はわたしのストーカーですか?

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「不安なことがあるなら聞くから話してよ」 「ごめんなさい……大丈夫です。今日は大切な台本の読み合わせだもんね。集中します」 円になって床に座ると、台本を開く。 「まずは台本の読み合わせの前に、軽くストーリーの説明からします」 人がお互いを傷つけ、争い合う世界をなげいた女神が人間の心から夢や希望、喜びという温かな感情をすべて奪い去り、空の彼方へばらまいてしまう。夢や希望、喜びという温かな感情を知らないまま育った少女はある日、自分の胸に宿る想いがなんなのか答えを知りたくなる。各地に散らばった感情のひとつを抱えて眠る妖精を見つければ、その答えへたどりつけると思った少女は、大人たちが立ち入りを禁じた森の奥へと向かってしまう。 ここで空の彼方へ散らばった感情を集めるため冒険をする少年に出会う。少年は森の奥で『夢』を抱え眠る妖精から夢を奪えば散らばった感情がすべてそろうから、妖精を探しているところだった。少年と一緒に夢を探す旅をすることによって少年がいう夢や希望、喜びとはどんな感情なのか少女も知りたいと思うのに、少年は夢や希望、喜びを持つほど悲しいことはないと少女に冷たくいい放つ。 少年が絶望したのは失われた感情をいくらかき集めたとしても、ひとりでは孤独なだけで意味をなさないと気づいたから。夢や希望、喜びという温かな感情を知りたい少女と、夢や希望、喜びという温かな感情に絶望する少年。まったく反対の想いを抱えたふたりが夢を手に入れることによって想いを共鳴し合う。 「ある程度はストーリーの方向性が台本を通して理解できるとしても、ラストが……」 台本の最後のページをめくる。そこは空欄になっていて、小さな文字で『ラストは演劇部全員の想いを物語にしてください』と書いてある。つまり毎年演劇部は同じ演目を演じてきたけど、ラストの終わり方はその年の先輩たちが考え、演じてきたから同じようなラストは存在しない。極端な話、ハッピーエンドにもバッドエンドにもなる。毎年学園祭で演劇部の上演が人気だったのは、実際に観るまでラストがどうなるかわからないというところもあったからだと思う。 「ちなみにわたしが去年観た先輩たちのラストのせりふは『わたしは決してあきらめない。いつまでも続く未来を信じている』だったよ。いま思うと、演劇部がいつまでも続いてほしいっていう先輩たちの願いだったのかも」
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