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そう考えてしまうと、去年の先輩たちがどんな想いで演じ、願ったのかと今のわたしなら痛いほどよくわかる。わたしだって誰かに想いを伝えたい。演じてみたいと思ったから今がある。
「今年のラストはどうするかしっかりと話し合って決めよう。自分の伝えたい想いや言葉、ラストをどう終わらせるか各自で考えてきてください」
演劇部のみんなには考えてきてなんていっちゃったけど、わたしはなにを伝えたいんだろう?なんの取りえもなくて、やりたいこともなくてただ流されるように毎日を送っていたあの頃のわたしのような人に、なにかを伝えられたらとは思うけど、そのなにかがわたしにはわからないんだよね。
舞台上で伝えたい想い……杏也先輩に宣言しちゃったけど、どうか見てみぬふりをしている想いだけは、あふれだして爆発しないで。
校舎を出ると、まだあかりのついている教室を見上げる。そこは生徒会の会議室だ。まだ杏也先輩たちは仕事をしているのかな?学園祭に向けて生徒会も忙しいのかもしれない。じっと見ていると、窓を開けようとする人影が映る。杏也先輩だった。窓を開けると、暮れかけている空をあおいでいる。心地いい風が、杏也先輩の髪をさらさらと揺らしているから、思わず見とれていると、杏也先輩の視線とわたしの視線が重なる。慌てて頭を下げてあいさつをしたのに、杏也先輩は気づいているのか、いないのか、窓を閉められてしまった。窓だけじゃなく、カーテンまで閉められて杏也先輩の姿を確認することができない。
「やっぱりわたし……さけられてる?」
気のせいだと思いたいのに、今日だけでこんなにもさけられてたらさすがのわたしでも杏也先輩の様子がおかしいっていいきりたくなる。頭をフル回転させて今まであった出来事を思い返してもやっぱり杏也先輩にさけられる理由がわからない。
次の日も、また次の日も。なぜか杏也先輩に会うことがあってもなぜかさけられている。今だってわたしのずっと後ろに杏也先輩が歩いている。振り返ると、杏也先輩まで顔を反らすように後ろを向く。
「あのさ、ひとついってもいい?」
こくんとうなずくと、杏也先輩にまで聞こえそうなほど大きな声で凪彩ちゃんが核心をつくようにいう。
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