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7.犯人の正体とふくらむ想い
杏也先輩の不可解な行動の理由がわからないまま夏休みが近づいていた。もちろん夏休み中も演劇部は学園祭に向けて練習をする。夏休み中の部活登校スケジュールと、体育館使用希望票を持って生徒会室へ向かう。相変わらず偶然なのか杏也先輩とよく廊下ですれ違うことはあるけど、一言もしゃべっていない。挨拶をしようとすると、決まって忙しそうにわたしの横を通りすぎて行ってしまうから、声をかけるタイミングを見失ってしまう。
夏休みがあけたらすぐに学園祭が始まる。だから学園祭実行委員も兼務している生徒会の人たちはいつも以上に忙しくしているみたい。生徒がいなくなった暗い校舎の生徒会室の窓だけはいつまでもあかりがもれている。きっとなんでもひとりで抱え込んでしまう杏也先輩のことだから人に任せるどころか、自分ひとりでやった方が早いと誰にも頼らずにたくさん仕事を抱えていそうで心配になる。
そんなことを考えながら生徒会室の前につくと、楽しそうな声がもれてくる。生徒会室のドアが微かに開いているから、いけないと思いつつも生徒会室の中の会話に耳をすませた。
『杏也~疲れたからいやしてよ』
『くっ、くっつかないでくださいよ』
『本当にふたりは仲良しだよな』
『うらやましいでしょ』
『うらやましい。うらやましい』
『はいはい、忙しいので冗談はやめてください』
会話が気になって生徒会室をのぞくと、そこには相変わらず無表情のままなにかを書いている杏也先輩の背中に、背中合わせになってもたれかかっている汐里先輩が拓梅先輩と楽しそうに笑っていた。杏也先輩がふたりにからかわれているようにも見える。
本当に仲良しだな。普通の女子なら杏也先輩にあんなこと出来ないだろうし、することすらなんだか怖くてできない気がする。わたしだって正直杏也先輩にあんなこと出来ない。たぶん心臓ももたなくなるだろうし……本当にうらやましいな。
やっぱり汐里先輩は杏也先輩のことが好きなのかな?だとしたら杏也先輩の気持ちは?モヤモヤとした頭で考えていると、杏也先輩が自分の背中にもたれる汐里先輩に振り返ってやさしい顔で笑った。そんな杏也先輩に気づきもしないで汐里先輩は拓梅先輩と楽しそうに話している。
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