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「だめ……かな?」
首を傾けながらかわいくお願いする拓梅先輩を見て、周りにいる女子生徒が息をのむのがわかった。
「だめじゃないです」
今にも杏也先輩につかみかかりそうだった女子生徒も顔を赤らめながらいちばん上までボタンを閉めていく。
「協力してくれてありがとう」
太陽のようにキラキラとまぶしく光るような笑顔で拓梅先輩がお礼をいうと、女子生徒が頭をペコリと下げて小走りでその場を立ち去る。それを見送るように拓梅先輩が手を振っていた。拓梅先輩の一言で意図も簡単に問題が解決してしまった。
笑顔の拓梅先輩とは反対に、杏也先輩はあきれたようにため息をつく。
「本当に兄さんは甘いですね」
「きょーが怖いんだよ。女の子にはやさしくだよ」
「ちゃんとしているものにはやさしくしているつもりですが」
「え~っきょーはオレにもやさしくないよ」
「ちゃんとしているものと私はいったのですが。しっかり話は聞いてくださいね、兄さん」
「またバカにして!むかつく」
「はいはい、仕事に戻りますよ」
頬をふくらませて怒る拓梅先輩をあしらうように杏也先輩が視線を登校する生徒の波に戻す。わたしももうすぐで那砂先輩たちの前を通る。ひとつ深呼吸すると、胸いっぱいに空気を吸い込む。
「おはよう……ございます」
チラッと杏也先輩の顔を見ると、杏也先輩と視線がぶつかる。
「おはようございます」
あいさつを返してくれると、杏也先輩の目線はすぐに遠くの方を向いてしまった。無表情だからその顔から感情を読み取ることができない。本当につかみどころのない難しい人だな。
「おはよう」
拓梅先輩が笑顔であいさつを返してくれたから、頭をペコリと下げた。じっと見つめるわたしに気づいて拓梅先輩が手を振ってくれる。無表情でたたずむ杏也先輩に、常ににこにこと微笑んでいる拓梅先輩。同じ兄弟なのに、双子なのに本当に真逆の性格をしていて、やっぱり比べられるんだろうな。なんて余計な心配をしてしまう。わたしも常にお姉ちゃんと比べられてきたからよくわかる。
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