25人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの……詳しくお話をしませんか?」
なるべく怪しまれないように平常心で言葉を発したけど、内心は心臓が飛び出しそうなほど緊張している。じっとなにかを探るような阿左美先輩の視線もまっすぐと受け止める。と、阿左美先輩が首を傾けながら微笑む。
「楽しそうなお誘いだから話、しようか」
ほっと胸をなでおろしながらも、手のひらを握りしめて阿左美先輩を見上げる。
「今日の放課後、演劇部の部室でお話しませんか?」
「わかった。じゃあ楽しみにしてるよ。花澄ちゃん」
手のひらをひらひらとさせながら阿左美先輩がその場をあとにする。遠くなっていく阿左美先輩の背中を見つめながらほっと息をつき、緊張感を解放する。なんとか阿左美先輩に挙動不審だと怪しまれずにすんだみたい。それに那砂先輩たちにもバレていないみたいだし、よかった。今日の放課後のことを思うと、今から胃がキリキリとする。でもわたしが気づいてしまった阿左美先輩の秘密をどうしても確認したい。勘違いならいいけど……。黙々と仕事をしている杏也先輩を横目で見ると、足音を立てずにゆっくりと生徒会室の前を後にした。
今日の演劇部の練習は、部室が使えないと伝えて各自自主練ということにした。あんな話をほかの部員に聞かれたら、きっとみんな心配する。せっかく一から作り上げてきた絆も結束力も壊してしまうかもしれない。それが怖い。でもわたしだけが阿左美先輩の秘密を確かめることができるし、演劇部を守るのはわたししかいない。誰もいない部室の中でそわそわと阿左美先輩が来るのを待っている。わたしの心臓の音だけがうるさいくらいに部室に鳴り響いている。
「花澄ちゃん」
軽やかな口調で阿左美先輩が部室のドアを開ける。
「阿左美先輩」
途端に心臓の音がさらに鳴り響くから、阿左美先輩に聞こえていないか気になる。
「こんな建物のすみにある湿っぽい教室が部室なんてなんだか秘密組織のアジトみたいでカッコいいね」
癒し系王子なんていわれている面影もないくらい、阿左美先輩はこの部室でこれから共有する秘密を心の底から楽しんでいるように見える。それがまた不気味な雰囲気を出している。
最初のコメントを投稿しよう!