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「噂は本当なんだよね?キミもあいつに恨みがあるんでしょ?」
「そっ、そうです」
怪しまれている。それだと本音が聞き出せない。手のひらを強く握りしめて大きく息を吸う。
「だってアイス先輩なんていわれちゃうくらい……冷たくて……人を見下しているし……」
本当は全部嘘だよ。本当は不器用なだけでやさしくて、誰かを助けてあげたいって自然に出来ちゃう人で……誰よりも人の痛みをわかってあげられるのに、自分の痛みに鈍い人なんだから。
心とは反対の言葉が口から次々にあふれていく。
「それに……説教だって長いし……そんな人……嫌われて、恨まれているに……きまっ……」
「わかったから、もういいよ。泣いちゃうほどあいつを恨んでいるんだね。嫌いだって気持ち、よく伝わってきたよ」
「えっ?」
右頬を触ると、温かい水滴が手のひらをぬらす。それに気づいてしまうのと同時に涙が次々と目から流れ落ちる。阿左美先輩の言葉を引き出すためとはいえ、心にもないことをいって杏也先輩を悪くいった。そんな自分が許せないし、思ってもいないことでも人を傷つけるような言葉をいった自分にも腹が立つし、情けないよ。涙をどうしたってとめることができない。
「つらいよね。僕もわかるよ。でも大丈夫。あいつを副会長から引きずりおろして僕が副会長になるから。それともあの兄弟ごと引きずりおろして僕が会長になろうかな。癒し系王子が会長も悪くないでしょ?」
「どうして……どうして阿左美先輩は杏也先輩を憎んでいるんですか?」
涙で視界がぼやけているからしっかりとは確認できないけど、絞り出すように発した言葉に阿左美先輩が眉を寄せてこちらをにらんでいるように見える。
「決まってるよ。僕が努力してもつかめないものをあいつは涼しい顔でつかみとっていくんだ。昔からそうなんだ。あいつはなんの苦労もしないで周りを見下しながら、けおとしながら、なんでもつかみとっていくんだ」
「そんな理由で……」
消え入りそうな声は怒りに満ちた阿左美先輩の耳には届かない。
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