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「とにかく、もうむちゃはしないでください。たぶん阿左美先輩は大人しくなると思いますが、念のため警戒はしてください。わかりましたね」
「はい」
「あなたは演劇部のことだけ考えてください。あなたがあの物語をどんな風に演じるのか、私は案外、楽しみにしているんですよ」
「杏也先輩のご期待にそえるように頑張ります!」
「だからあなたは頑張らなくていいです」
予想外の答えが返ってきて、思わず「へっ!?」なんて変な声を出すと、杏也先輩があきれたようにため息をつく。
「なんですかその顔は!あなたは頑張ろうとすると気持ちが空回りしてとんでもないことをしでかします。だからほどほどでいいんですよ」
「それは……もしかしてわたしがプレッシャーに押しつぶされないように心配してくれているんですか?」
わたしが杏也先輩の言葉をポジティブにとらえたことにおおげさなほど大きなため息をついてあきれているみたい。杏也先輩のわかりづらいやさしさだって思ったのに間違ってたのかな?
「あなたの頭のなかを一度のぞいてみたいものですね」
「そっ、それはダメです!絶対に見ないでくださいね」
わたしの頭のなかをのぞかれたら杏也先輩への想いがたくさんつまっているだろうから恥ずかしいし、最悪引かれたら立ち直れなくなりそう。
「見れませんよ。それに見なくてもあなたはわかりやすいですから」
「単純だっていいたいんですか?」
「かわいい人だっていってるんですよ」
「えっ?……もう一度いってください!」
聞き間違いじゃなかったら杏也先輩がかわいい人っていってくれたよね?次こそは聞き逃さないようにと顔を近づけてお願いすると、杏也先輩が手の甲で口元をおさえながら「近いです」といって顔を背けてしまった。期待しながら杏也先輩の言葉を待っていると、咳払いをしながらわたしに向き合うから、ドキドキと淡い期待に高鳴る胸をおさえる。
「いやっ……間違いです。今のは違います!変わってる人だっていいたかったのにかみました」
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