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「どうしたの?せりふ忘れちゃった?」
小声でたずねても土田さんは何も反応をしないまま、立ちつくしている。
「土田さん?」
さすがに様子がおかしいと気づいた水川さんや草野さんも舞台中央に集まる。
「どうした?」
草野さんが土田さんの肩をたたくと、土田さんがビクッとさせてわたしたちの方を振り返る。その目は、大きく見開かれたまま、おびえているようにも見えた。
「土田さん大丈夫?顔色悪いけど、具合でも悪いの?」
「……ごめん。今日は帰る」
「土田さん?」
舞台上から降りて、うつむき加減に体育館の入り口まで歩いていく。
「土田さん、ひとりで大丈夫かな?」
「ひとりでいいんだよ」
「そうだね。しばらくはひとりにした方があたしもいいと思う」
「えっ?どういう意味?」
「今日は動きだけ確認して早めに練習を終えよう」
わたしの疑問にふたりが答えてくれることはなかったけど、深く考えないようにして、いわれるがまま動きだけ確認して、演劇部の体育館使用日の練習は終わった。
次の体育館使用日の練習の間は、何事もなく最後まで通しで演じきることができた。ただし、少女の最後のせりふをわたしはまだ、決めかねていた。だから何パターンかせりふを考えて演じてみるけど、どれもしっくりこない。
「もうこんなもんでいいんじゃないかな?あとは当日、恥ずかしくない演技をすればなんとか形になると思う」
「そうだね。最初から演劇部にみんな期待してないわけだし、こんなもんでしょ」
なんとなく投げやりな言葉に苦笑いしていると、ふたりの視線が土田さんに向く。
「どうにか乗り越えてね」
「……わかってる」
初めての舞台上での練習以来、なんだか土田さんが元気ないし、顔色も悪いから心配になる。それに乗り越えるってなんだろう?疑問に思いながらも、みんなのやり取りを見守る。
「明日は体育館での練習だよ。いけるよね?」
「大丈夫だから」
土田さんが苦しそうに汗を拭いながら肩で息をしている。
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