8.部長失格

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「もしも体調が悪いなら、無理しないで。本番までまだ時間はあるし」 「本当に部長はお気楽でいいですね」 「……」 『どういう意味?』と聞きたくなる言葉をのみこんだ。 「まただまるだけなんだね」 「部長に八つ当たりしても仕方ないでしょ」 「ごめんなさい。もしもわたしが気づかないことがあったら遠慮しないでいってほしい」 「遠慮してるのは……部長じゃない」 バラバラになった思いはさらにバラバラに散らばっていくみたいだ。まるでわたし達が演じるはずの物語の中にわたし達の方が迷いこんでいるみたい。バラバラになったものをかき集めた先はハッピーエンドであってほしい。そのためには部長として、わたしは何ができるんだろう。 それぞれが不安を抱えたまま、2回目の体育館使用日がくる。あれから毎日のように練習を重ねてきたからなんとか形にはなってきている。でも相変わらずわたしは、ラストのせりふを決められないでいた。それに表面上はみんなでうまくやっているように見えるけど、口数も減って必要最低限の会話以外は言葉を交わさなくなったし、淡々と練習をこなしているだけで、みんな心はどこかに置き忘れたみたいにからっぽのまま。演劇部として学園祭というひとつの目標に向かってみんなで一緒に歩みを進めていたはずなのに、今はみんながバラバラの方向を見つめながら歩みを進めているみたいで、気持ちを共有できないままでいた。 部長として、演劇部をまとめることもできない中、今日は生徒会や実行委員の人たちが、演劇部の練習を見学にくる。演劇部がバラバラになっているこんなときに杏也(きょうや)先輩が見学に来ることが怖くて、悔しくて今からずっしりと頭が重くなる。 体育館に演劇部みんなで移動するときも、準備体操を始めても、今日のわたし達もやっぱりみんながバラバラで気持ちがひとつになっていない。いつもなら率先してストレッチを始める土田さんも体育館の床に座りこんだまま、うつむいている。心配になって声をかけようとするわたしを、草野さんが無言で止める。 「おはよう。演劇部のみんな」 不穏な空気を拭うような明るい声が体育館に響く。
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