8.部長失格

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茶化すように阿左美(あざみ)先輩が首をかたむけながら微笑んでいる。完全にからかわれてる。杏也(きょうや)先輩の反応が気になっておそるおそる杏也先輩を見ると、ムッとしたようにじっと見ている。その横で拓梅(たくみ)先輩がなぜか慌てたように手をバタバタさせているから、汐里(しおり)先輩があきれたように拓梅先輩をなだめている。 「はっ、早く練習をしなくていいの?か……な?ねぇ、きょー」 「そうですね。早く始めてください。演劇部、部長」 「はっ、はい」 杏也先輩の口調が怒ってる。しゅんと落ち込むわたしに追い討ちをかけるように阿左美先輩がからかってくる。 「あれは焼きもちかな?怒るともっと怖いね」 「だから茶化さないでください」 「私たちは忙しいんですよ。さっさと始めなさい!」 「はい!い、今から始めます。本日はよろしくお願いします」 慌てて頭を下げると、杏也先輩の怒った顔を見るのが怖くて、顔を上げられないまま振り返り、みんなを集めて舞台に向かう。土田さんも少し遅れて立ち上がると、うつむき加減に歩きながらわたし達と合流する。なんて声をかけていいかわからず、わたしも無言で舞台そでに立ちつくす。 「とりあえず円陣でも組む?」 「生徒会の人を待たせるわけにいかないから、さっさと始めよう」 「そうだね。ごめんなさい……」 照明を担当してくれる人に合図を送って舞台上を照らしてもらう。深く息をはいて気持ちを落ち着かせて舞台上に出ていく。阿左美先輩から受け取った背景の映像が加わると、まるで物語の世界へ入り込んだみたいに幻想的な世界が広がる。緊張してまだうまく口が回らないけど、自分も物語の一部に入り込んだみたいで、いつも以上に気持ちが高揚していることに気づく。なんとかここまでは順調に演じることができている。少し余裕が出てきたせいで、自然と杏也先輩に視線が向いてしまう。 難しい顔で腕組みをしながらじっと舞台上を見つめている。舞台上からでもこれだけ人の顔を確認することができるなら、学園祭当日の満員の人の目が一斉に舞台上に注がれると思うと、今から緊張するけど楽しみって気持ちもふくらんでいく。いよいよわたしのひとり芝居が終わって、土田さんが舞台上に登場する。心配な要素はたくさんあるけど、土田さんならきっと大丈夫だよね。
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