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「誰か……誰かいませんか?お願い……助けて」
少し間があいたけど、土田さんが舞台中央に登場する。最初のせりふはなんとかクリアした。でも次のせりふが土田さんからなかなか出てこない。前を向いたまま、立ちつくしている。ここで流れを止めたら物語が終わっちゃう。わたしがしっかりフォローして、次の土田さんのせりふに繋げないと……それには土田さんのせりふをおかしくないように少女の言葉に変えればいい。
土田さんのせりふを少女の言葉に変えてなんとか土田さんにバトンを渡した。でも土田さんは無言のまま……舞台を降りてしまった。物語がそこで終わってしまった。
「土田さん」
土田さんを追いかけようとするわたしの腕を、草野さんがつかむ。
「放っておきな」
「でも……」
「これは、本人の問題なんだから」
「本人の問題って?」
「まだ気づいてないの?」
草野さんがあきれたようにため息をつきながらわたしの腕を解放すると、わたしに背を向ける。
「体調が前から悪いって」
「違うの。どちらかというと心の問題かも」
「心の問題?」
「いってたの……舞台に上がるのが怖いって」
「どういう意味?」
水川さんが困ったようにうつむくから、草野さんが水川さんをなぐさめるように肩をポンと叩いてからわたしに向き直り、水川さんがためらった言葉を草野さんが代わりに話し出す。
「総合アクター部に落ちたのが相当ショックだったみたい。入部オーディションの日、舞台上から見えた人の視線が自分をあざわらうように見えたって。だから舞台上に上がるとあの日のことを思いだして、怖くて体が動かなくなるって」
「そんな……わたし、ぜんぜん気づかなかった……」
自分のことでいっぱいいっぱいで演劇部のみんなのことまでちゃんと見れてなかった。悩みに気づいてあげられなかった……今冷静に考えると、土田さんからのSOSはたくさんあったはず。なのに体調が悪いのかなくらいにしか考えていなかった。土田さんも体調がよくないっていっていたから言葉をそのまま受け取っちゃったけど、本当は助けてっていいたかったのかも。気づいてしまうと、自分がどれだけ無力で部長として経験不足だったのかと思い知らされる。
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