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「わたしに頼ってくれればよかったのに……」
思わずこぼれた言葉に水川さんが反応する。
「いえないよ……だって部長とあたし達には……かべがある」
「かべ……」
またかべがあるといわれてしまった。水川さんがいうかべってなに?わたしにはわからない。意味を聞こうとするわたしの後ろから拓梅先輩の声が聞こえてくる。
「あの子、どうしたの?」
「これはどういうことですか?説明してください、部長」
杏也先輩のいつもより低く、冷めた声がわたしの心をさらに重たくする。
「わたしが……わたしがいけないんです……すべてわたしの責任です」
「そんなことは聞いていません。演劇部の現状を聞いているんですよ」
「花澄ちゃんを責めるなよ」
「あなたは黙っていてください」
「怒ってるきょーに黙るはずないだろ」
那砂先輩たちがけんかを始めちゃったのに、わたしは杏也先輩の質問に答えることもできない。
「あなたは演劇部の部長として、もう一度よく考えなさい。部員もまとめられない、現状も把握できない。そんなの、部長失格ですよ。誰もあなたについてきてはくれない」
部長……失格……ついてきてくれない。杏也先輩のいう通りだ。なにも反論しようがない。
あきれたようにため息をつくと、体育館の入り口の方へ歩いていく杏也先輩に「いいすぎだぞ!」といいながら拓梅先輩が追いかけていく。
「水川さん、草野さん……本当にごめんなさい」
「別に……」と草野さんがいうと、水川さんとふたりで体育館を出ていってしまった。体育館にひとり残されて舞台上から全体を見渡す。この先、わたしは部長として、人として、土田さんや演劇部のためになにができるんだろう……なにをしなくてはいけないんだろう。もうなにもかもわからなくなってきた。
一度冷静になろうと思ってひとり部室へと戻る。杏也先輩からこの部室のかぎをもらったときは、この部室には入りきれないほど部員が集まってくれたらうれしい。とかみんなでひとつの目標に向かって頑張るとか、希望がたくさんつまった空間だったのに、今は夏の暑さにすべて溶けてなくなりそうなほどはかない希望だったのかなって、まるで夢からさめたように頭がなにも考えられないでいた。
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