8.部長失格

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しばらく部室の中央で立ちつくして、蛍光灯のまぶしさに目を細めながらも天井を見つめていた。じっとしてると、マイナスの考えが浮かんでは消えてまた浮かぶから、なんとなくわたしが演じる少女のせりふに合わせて体を動かしていく。 本当は考えたくないけど、土田さんが舞台に上がることを拒んだり、上がったとしてもまた今日みたいにつらそうな顔で動きを止めてしまったら、それをフォローできるのはわたししかいない。もしも学園祭当日、土田さんが舞台に上がれなかったら……わたしは土田さんが演じる散らばった感情を集めながら冒険をする少年の分も演じないといけない。比較的からみの少ない『夢』を抱えたまま眠る妖精を守る騎士を演じる草野さんに代役をお願いすることも考えたけど、騎士の見せ場はやっぱり『夢』を奪おうとする少年から妖精を守る場面だと思うからそこの場面は削ることができない。 それならわたしが自分に宿る感情を知りたいと散らばった感情を集めながら冒険をする少女という設定で、少年のせりふもまぜながら物語を進めなくてはいけないかな?台本に目を通しながら動きやせりふを修正していく。一通り直してはみたけど、やっぱり少女にとっても、物語の流れ的にも少年というキャラは物語のかぎを握っていると思う。 出来れば土田さんに演じてほしい。でも無理をさせたくない。わたしは部長として、土田さんが追いこまれる前になにかできたはず。今さら後悔してもなにも始まらないから、先に進むことしかできないよね。とりあえずやれることはやってみよう。 物語全体を通して自分なりに修正した、自分に宿る感情を知りたいと散らばった感情を集めながら冒険をする少女を演じてみた。この場面の少年はカッコいいんだよね。この場面は少年のせりふにひっばられてわたしまで本当に悲しくなっちゃうんだよね。と、演じれば演じるほど、やっぱり土田さんが演じる少年を見たい。一緒に演じたいと強く思ってしまう。 「やっぱり……土田さんなしの物語なんて……考えられない」 流れる汗をタオルで拭いながら、もう一度台本に目を通す。土田さんが周りの目なんて気にならないくらい物語の世界でいきいきと演じてほしい。わたしにも土田さんをひっぱれるくらいの演技力があればよかったのに……。そんなことをなげいていても始まらないから、アドリブでもなんでもいいから物語の流れを止めないように土田さんを物語の中へ必ずわたしが引き戻そう。
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