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頭の中でどんな不測の事態にも対応できるようにと、せりふとシチュエーションを組み立てていく。と、部室のドアをノックする音の後に、すぐドアが開く。そこには、汐里先輩が立っていた。
「汐里先輩」
「やっぱりひとりで練習していたんだね。なんかこの中、暑くない?」
手であおぎながら冷房をつけると、ペットボトルの水をわたしに差し出してくれるから、お礼をいって受け取ると、一口くちにふくむ。
「それ、杏也から」
「えっ?」
危うく水を吹き出しそうになるところだった。慌ててタオルで口元を拭くわたしを見て、汐里先輩がクスッと笑う。
「様子を見てくるように頼まれたの。水くらいじゃ花澄ちゃんの機嫌は直らないよね。でも杏也なりのお詫びのつもりみたい。わかってあげてね」
「お詫びだなんて……」
それなら杏也先輩が直接来てくれればよかったのに……どうして汐里先輩にお願いするの?
なんで汐里先輩なの?わざわざ心配して来てくれたのかもしれないのに……今は汐里先輩に会いたくなかった。余計にわたしの心をかき乱さないでほしいなんて思っちゃう気持ちは……きっと嫉妬なんだ。杏也先輩がお詫びといいながらくれた水がわたしには苦く感じた。
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