25人が本棚に入れています
本棚に追加
/126ページ
ここまで情報を整理すると、やっぱり演劇部復活の道は杏也先輩を納得させるなにかがないといけないのかもしれないという結論に達した。
「納得するなにか?」
考え込みながら歩いているうちに、いつの間にか生徒会室の前まで来てしまったらしい。少しだけ扉が開いているからダメだってわかってはいたけど、なにかヒントがあればと思う気持ちと少しの好奇心に負けて中をのぞきこむ。そこには長机の間を挟んで向かい合うように座る拓梅先輩と杏也先輩がいた。
これから昼食を食べるみたいで、お弁当箱のふたをふたりして開けているところだった。
「うわっ。みおにぃのオムライスだ。うさぎのご飯にたまごがかけられてる」
ふたを開けるなり拓梅先輩が少し興奮ぎみに声をあげて喜んでいる。
「……かわいぃ」
小声でつぶやくと、杏也先輩がほほをゆるめてうれしそうにしている気がした。杏也先輩でも表情をゆるめることがあるんだと驚くと同時に見間違いかもしれないと思い返してじっと杏也先輩を見つめる。
「なんかいった?」
「いいえ……っ」
ゆるむ顔をごまかすように杏也先輩がひとつ咳払いをすると、表情を引き締める。
「私たちはもう高校生ですよ……なのに深桜兄さんはいつまでも私たちを子供扱いして」
「本当はうれしいんだろ?素直じゃないな。きょーは」
「うれしくなんてありませんよ」
口元を手の甲でおさえながら拓梅先輩から視線を反らす杏也先輩の頬がほんのりとピンク色をしている気がした。もしかして照れてるのかな?あんな柔らかな顔もするんだと意外な一面を見てしまったみたいで心臓がどきりと音を立てた。きっとお兄ちゃんでもある拓梅先輩とふたりきりだから空気が柔らかいのかもしれない。てことは今見せてくれた顔が本当の杏也先輩なのかもしれないと思うと、そっと中をのぞいているだけだったのに、もう一度あの顔が見てみたくて行動が大胆になって扉に手をつきさらに中をのぞきこもうとしていると、杏也先輩と目があう。
「誰かいるんですか?」
のぞきこんでいるのがバレたらいいわけも理由も説明できないと慌ててその場を駆け出して生徒会室から離れる。ただ単に前を通っただけといいわけをすればよかったのに、どうして逃げ出すようなことをしたんだろう。自分でも自分の行動が不思議だ。
最初のコメントを投稿しよう!