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9.アイス先輩があますぎる!?
机の上に重ねられたいすを2脚、汐里先輩がおろすと、足を組みながらいすに座る。それが雑誌のモデルさんのようにかっこよく見えるから、やっぱり汐里先輩はわたしから見ても憧れの先輩だ。
「となりに座ったら」
「はい」
おそるおそるうつむき加減に隣に座ると、膝にのせた手のひらを握りしめた。
「杏也ったら『もしかしたら彼女に少し言い過ぎたかもしれません。心配なので見にいってください』なんて、珍しく慌てちゃってさ。『自分で行けばいいでしょ』っていったら『やはりこういうことは女性同士の方が話しやすいかと。話しを聞いてあげてください』だって」
やさしいのか、残酷なのかわからなくなりそうだけど、杏也先輩らしいな。とは、思ってしまった。そんなことを考えているとは知るよしもない汐里先輩がさらに話しを続ける。
「そしたら拓梅が『今日こそはお兄ちゃんとしてきょーを説教します』なんてはりきっちゃって、笑いをこらえるのが大変だったからひなんしてきたってわけよ」
生徒会室での様子を思いだしながら汐里先輩がおかしそうに笑っている。わたしはやっぱり笑えないと、無言でうつ向いているとわたしとの温度差を感じたのか、急に汐里先輩が押し黙るから不安になって顔を上げる。
「あの……」
「それで、演劇部はあんな舞台をわたし達にみせてしまった。学園祭までに花澄ちゃんは演劇部をどうやって立て直すつもり」
核心をつく汐里先輩の言葉に目を伏せ考える。気持ちを整理して、細く息をはいて口を開いた。
「わたしは、土田さんが抱えている悩みに気づいてあげることができませんでした。だから杏也先輩にいわれた通り、部長失格です。わたしが頼りないからみんなを不安にさせてる……全部わたしの責任です。だから……」
「違う」
「えっ?」
「それは違うよ。花澄ちゃんは間違ってる」
怒ったような口調の汐里先輩の言葉に驚いて顔をあげ、汐里先輩を見つめる。と、困ったように微笑みながら真っ直ぐにわたしを見ている。
「わたしも生徒会として花澄ちゃんと演劇部を見守ってきたつもりだから花澄ちゃんが責任を感じるのはよくわかる。でもね、演劇部は花澄ちゃんひとりのものじゃないんだよ」
そんなのわかってる……つもりだけど……汐里先輩に返す言葉が見つからない。
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