9.アイス先輩があますぎる!?

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「おっ、遅くなってすみません」 肩で息をしながら杏也(きょうや)先輩に謝る。結局、走っちゃったから微妙に汗も流れるし、髪もぐちゃぐちゃだ。意味ないじゃん!恥ずかしい……。 「しっかり戸締まりをしましたか?」 「しっ、しました」 杏也先輩にわたしの行動を見透かされているみたいで、ドキッとする。かぎを閉め忘れて一度戻ったってことは内緒にしておこうと思った。 「それじゃ帰りましょう」 「はい」 先を歩いていく杏也先輩の後ろを追いかけていく。杏也先輩って歩くのが速いのかも。小走りに追いかけるのがやっとで、置いていかれないように手を杏也先輩に伸ばしたくなる。でもそんなこと出来ない……伸ばしかけた手を握りしめて前を歩く杏也先輩の後ろ姿を見上げた。 駅の広場まで来ると、杏也先輩が突然立ち止まるからわたしも足を止める。 「すみません。はやすぎましたか?」 「だっ、大丈夫です」 ムッとした顔で杏也先輩が振り返るから反射的に身構える。 「今日は……いいすぎてしまいすみませんでした」 「えっ?いいえ……わたしが部長失格なのは本当のことですし。でもしっかりと向き合おうと思っています」 「汐里(しおり)をあなたの元へ行かせてよかったです。彼女もああ見えてしっかりとした強い女性ですから、あなたもいい刺激になると思いました」 「そう……ですね」 杏也先輩の口から聞きたくなかった。好きがたくさんもれだしているように聞こえて、またわたしのいやな感情が押し寄せてきそうで怖い。うつむき負の感情と戦っていると、わたしの横を自転車がすれすれに通るから、杏也先輩がわたしの方へ腕を伸ばす。わたしの肩をつかむと、自分の方へ引き寄せるからふたりの距離が一気に縮まった。 「大丈夫ですか?」 「はっ、はい」 近づいた距離に慌てていると、杏也先輩がおかしそうにくすりと笑う。 「あなたは本当に小動物みたいですね」 「……っだから小動物ってなんですか?」 「そうですね。例えばうさぎとかハムスターとか……」 「そういうことを聞いているんじゃなくて」
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