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またからかわれた。おかしそうに笑っている杏也先輩の顔を見ていたらなんでも許せちゃうし、むしろからかわれるのもうれしいなんて思っちゃう自分は重症だなって思うとなんだか悔しい。わたしだってたまには仕返しがしたいという衝動から、杏也先輩の制服のネクタイをつかんでグイッと引っ張りながら顔を近づけた。
「わたしが小動物だっていうなら、とことんかわいがってくれてもいいですよ。杏也先輩」
少女まんがで見たようなシチュエーションを見よう見まねでやってみたけど、案外恥ずかしい。杏也先輩の驚いたような顔が近い。今すぐにでもネクタイから手を離して土下座してでも謝りたいくらい。でも自分から仕掛けといて自分から引くわけにはいかない。
それに杏也先輩のことだから『調子にのらないでください』ってあきれたように言葉を返してくれるよね。
「あなたがいうかわいがるとは、具体的にどうすればいいのでしょうか?」
予想外の言葉が返ってきたことに驚いて、ネクタイをつかんでいた手が自然とゆるみ、杏也先輩を解放する。今さら恥ずかしさがこみあげてきて、顔を真っ赤にするわたしとは対照的に、杏也先輩はわたしの顔を不思議そうに見ながらもかわいがるの意味を真面目に考えているみたいだった。
たまにはわたしのことで杏也先輩にもドキドキしてほしいって思っちゃう欲望を、たまに見せる杏也先輩の天然な反応が意図も簡単にわたしにはね返してきて、わたしのほうがさらにドキドキさせられちゃうんだから本当に悔しいな。でも今さら引き返せないから、杏也先輩の疑問に素直に答えてもいい……よね?
「よし、よし……とか?」
『あなたは子供ですか』と、どうせあきれたように冷たくあしらわれるなら、もう願望を口にしちゃえと、勢いで口にして目を伏せながら頭を下げる。じっと杏也先輩の反応を待っていると、ふっと笑いながらわたしの頭に手を伸ばす気配を感じる。
「あなたはたくさん頑張っています。でも頑張りすぎないでくださいね」
大きくて温かな手がわたしの頭をやさしくなでてくれる。心地いいような、恥ずかしくてドキドキするような……心がくすぐったい。
「あなたは真っ直ぐで勢いだけでつっぱしるところがあるから、私はこれでも心配しているんですよ。だからたまには私にあまえてください」
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