9.アイス先輩があますぎる!?

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杏也(きょうや)先輩にこんなにやさしくされて、あまやかされたら……想いがあふれだしそうになっちゃうよ。ドキドキとリズムを刻む音が、恋するストロベリーの甘い香りと一緒にわたしをやさしく包みこむ。ずっとこのまま、このままがいいと願ってしまう。でも……杏也先輩の心の中にいるのは、わたしじゃない。 そう思ってしまったら、自然と体に力が入る。その行動が杏也先輩にはわたしがいやがっているように感じたのか、すぐに頭から手をどけて、咳払いをしている。 「あなたに合わせてたら……少し調子にのりましたね。いやでしたか?」 「そんなこと……聞かないでください」 聞かなくたってわたしがいやじゃないって本当はわかってほしい。でも今は杏也先輩の大きくて温かな手がわたしを悲しくさせる。 「やっぱりあまやかしモードの杏也先輩はいじわるでずるいですね」 「そうでしょうか?」 おそるおそる見上げた杏也先輩の瞳に映るわたしは、杏也先輩のことが好き。だけどこの気持ちをどうしたらいいかわからないって、今にも泣き出しそうな顔をしている。わたしの瞳に映る杏也先輩は?答えはわかっているけど、今だけはわたしだけの杏也先輩でいてほしいって願ってもいいよね? 「もう遅いですし、早く帰りましょう」 「そうですね」 本当はもっと杏也先輩と一緒にいたいけど、杏也先輩だって学園祭に向けて忙しそうにしているから、早く家に帰ってゆっくりしてほしいって気持ちもあるからわがままいえないよね。 ふたり同時に歩き出すと、改札を抜けて自分が乗る電車のホームへと向かう。時折どっちに行くのか聞いてくれる杏也先輩は、『さようなら』のタイミングを見ているみたいだった。別れが近づいているみたいでさみしいなって思っていたのに……どうして同じ電車に乗っているの? 駅前で繰り広げられた甘酸っぱい記憶を思いだしながら、ひとりうれしくなったり、悲しくなったりを繰り返しながら杏也先輩への想いをはせながら帰るっていう場面じゃないの?
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