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   治療を終えたDIANA-141は、廊下を歩いてルユテの元に向かっていた。  ふと、普段は開いていない部屋のドアが半開きになっていることを感知する。  Dとだけ書かれた部屋だった。DIANA-141は何かに導かれるようにして、中に入る。  薄青い光に満ちた部屋には、たくさんの筒型のガラスケースが並んでいた。中にいるのは、DIANA-141と同じ姿をしたアンドロイドたちだ。  ああ、だからDなのかと納得する。  声が聞こえて振り返り、思わずDIANA-141は近くのガラスケースに身を隠す。ここは基地なのだから、敵がいるはずもないのだが。  斜め上のガラス窓から、ルユテとネミが見下ろしていた。 「記録映像を見たよ。DIANA-141は、同じ型のアンドロイド……DIANAを見てためらい、欠損していた。DIANAシリーズの欠点だな」  彼はDIANA-141がここにいると気づいていないらしく、ネミに滔々と語っている。  DIANAシリーズの欠点。もちろん、DIANA-141はそれを知っていた。DIANAシリーズは元々、人間を守るために作られた戦闘アンドロイドである。だからこそ、機械的判断だけでなく情動的な動きができるように、高度な感情システムをプログラミングされた。  たとえば、自軍が不利になっても取り残された子供を助けるように。たとえば、自分が犠牲になっても人間を逃がせるように。  DIANAシリーズはまさに、人間のために生み出されたアンドロイドとも言えた。  感情システムのあるアンドロイドということで、ほかのアンドロイドよりもDIANAシリーズは人気が出て、富裕層はこぞってDIANAシリーズを求め、護衛に選んだ。  しかし、いつしかアンドロイド同士を戦わせる戦争が主流となって……DIANAシリーズも戦争に駆り出されるようになった。  一時の人気のため、DIANAシリーズは大量生産されていた。これを利用しない手はない、とばかりに政府は国民からDIANAシリーズを徴収して戦闘員にさせた。  DIANA-141も昔は、どこかの家庭で誰かを守っていたのかもしれない。だが、そんな過去があったとしてもその記録はもう消去されていて、確かめる術もない。もしかすると、工場から直接ここに配属されたのかもしれない。  DIANA-141には、わからないのだ。  いつまで、DIANA-141は戦うのだろう。DIANA-141は終わらせる言葉を知っている。マスターの音声で「これで最後にしよう」と言ってくれたら、DIANA-141の非常時戦闘形態は解け、いつかのように護衛用アンドロイドとしての武装だけになる。  もし、DIANA-141を待っている家族がいるなら。帰りたいと、思った。  今のマスターは、ルユテだ。人間同士の戦争が終わるまで、彼はDIANA-141を解放しないだろう。  博士たちの会話は。続いていた。 「DIANAシリーズは、戦争に向いていない。出力、機動ともに最高水準なのに残念だよ。私たちには彼らの技術を超えることはできない。だからDIANAシリーズほどの機体は作れないだろう」  ルユテは冷静に言い切った。 「それでもなお、感情プログラムが邪魔すぎる」 「なら、どうするの?」 「MARSシリーズに移行していく。でなければ、我々は勝てない」  すっ、とルユテの目が隠れていたDIANA-141を射貫く。  目、ではない。レンズだ。そう知覚したとき、ルユテが手を上げて、遠隔操作でDIANA-141は強制シャットダウンさせられた。
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