85人が本棚に入れています
本棚に追加
危険なゲーム(4)捕縛
吉村達は、花園神社の近くに来た。周囲は暗く、たまに通りかかる通行人がいるくらいで、あまり人影は見当たらない。
その後を尾いて来ていた涼真は、物陰からそれを眺めていた。
(何してるのかな)
放課後、4人は思いつめた様子で口数も少なく学校を出ると、ここへ来たのだ。
そして今、何か言い合っているのだが、遠くて涼真の所からは聞こえなかった。
その内、彼らは肩を落とし、そこから立ち去ろうとした。
(何をしに来たんだ?)
わけがわからないが、涼真は距離を置いて後を追う事にした。
その前に、湊に連絡を入れる。
顔を合わせても不自然でない涼真が背後に付き、他は別の方向から付いて行っていた。
「今、花園神社の裏に来たんだけど。何か言い合って、すぐに帰るみたいだ」
『何かしたのか?』
「いいや。来て、何かちょっと言い合って、おしまい。何だろう」
『何かあるか?もしくは、誰かいるか?』
涼真は周囲を見回した。
「これと言って――あ。学校の前に来てた集団の1人が神社の中にいたけど……どうしよう。こっちに走って来たぞ!」
ちょうど拝殿の奥から出て来たチンピラの1人が、涼真を見付け、走って来る。
気のせいかと周囲を見回すが、どうも、そいつが目指しているのは自分らしい。
「待て、コラ!」
「え、何で!?」
吉村達の方を見ると、涼真と今の声に気付いたのか、振り返っている。
(逃げろと言うべきか!?でも)
迷う間に、チンピラは涼真に掴みかかり、
「お前か!?」
と言い、涼真に何も言わせず、そのまま拘束するようにして、そばにとめてあった車に押し込んだ。そして、走り去る。
それを、吉村達は呆然と見ていた。
「え、今の何?誘拐?」
「学校に来てたやつらだったよな」
顔を見合わせて、青ざめる。
「どうしよう」
「警察に?」
「何て」
そこに、左手から湊が走って来る。
「あ、新任の先生だ」
「あれ?向こうから来るの、保健の先生だろ?」
右手からは雅美が走って来る。
「おい、もしかしてあれもそうか?」
前方から来るのは悠花だ。
彼らは、ますますこの状況に混乱した。
「おい!」
「ふぁい!!」
湊に睨み据えるようにして声をかけられ、裏返った声で返事をした。
雅美と悠花も到着し、囲まれている。
「あいつがお前らと間違われて連れて行かれたのはわかってるよな?今月2日の夜、ここで何があった」
吉村達は震えていた。
「何で、先生が、そんな」
井上が言うのに、雅美は笑った。
「私達が、教師や事務員だと思う?」
吉村達は、ビビった。秘密組織か何かと誤解していた。
「ああ?」
湊が、つながっていた電話から聞こえて来た声を、スピーカーで皆に聞かせた。
『お前、2日の夜にぶつかったやつか』
それで、吉村達は一斉に顔色を悪くして、オドオドしだした。
その様子を見ながら、返事をする。
「そうだったら?」
『アレを持って来い』
吉村が、カバンをギュッと押さえた。
「あれ?」
『しらばっくれる気か。キャンディだよ。こいつが死ぬぞ』
「……いつ、どこへ行けばいい?」
『……ええっと、午後10時に、花園神社の中の拝殿の中だ。
警察に知らせたらどうなるかわかってるだろうな』
「ああ、わかった」
それで電話は切れた。
「さて」
湊と雅美と悠花の包囲が、狭まった。
「ひいぃ!」
吉村達は、笑顔が怖い事もあると、初めて実感した。
涼真はガムテープで、口を塞がれ、両手を拘束され、後部座席に転がされていた。
電話を切ったチンピラは、アドレスを見て、涼真に哀れみの目を向けた。
「篠杜、木賊、竹内、錦織の4つだけか。お前、友達少ないんだな」
「うー、うううー、うううううー」
仕事用の、余計なものが入っていない携帯だ。
友人はいると抗議したいが、ガムテープでできない。
涼真の抗議は全く通じず、チンピラは自分のスマホを出して、どこかに連絡した。
「あ、山田っす。今神社で――」
そう報告を始めるのを聞きながら、涼真は、
(キャンディって何だろう?
ああ、もしこの姿で殺されたりしたら嫌だなあ)
と考えていた。
最初のコメントを投稿しよう!