対話(4)話さなくても通じるというのは幻想

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対話(4)話さなくても通じるというのは幻想

 つつがなく披露宴は進行し、大勢の招待客を送り出した後、行人、恵梨香、湊、柳内、別室のメンバーだけが喫茶店の小部屋を借りて集まっていた。  そこで、このメンバーには全てを話しておく。 「というわけで、遺恨はなくなったと思う。兄さんに話すかどうかは任せるけど、北条さんには、普通に接して欲しい」  湊がそう言うと、行人は軽く嘆息して頷いた。 「わかった。麻美さんが何か言わない限り、何も無かった事としておこう」 「皆さん、お手数をおかけしました。ありがとうございました」  恵梨香が頭を下げる。 「あれだな。亜弓って子も、そんな気を回すんじゃなく、苛めを辞めさせる方に頭を使えばよかったのに」  柳内が残念そうに言った。 「そうね。教師でも教育委員会でも弁護士でも警察でも、駈け込めば良かったのよ」  恵梨香が溜め息をつく。 「いっそ、転校でもよかったと思いますよ。お兄さんとお父さんの所に行くとか」  悠花が言うのに、 「そうなると母親が1人になるとか思ったんだろう」 と湊が言うと、皆、嘆息した。  柳内が言う。 「何にせよ、言うべきだったんだよ。よく、わかってくれるはずとか言うけど、わかるわけがないよ。せっかく言葉があるんだから、対話しないと」  ピク、と行人と恵梨香が肩を揺らした。 「まあ、終わった事だしな。  さあて、帰るか。  引き出物何だろう。重いな」  湊が言うのに、恵梨香が思わず答えた。 「選んではがきを出すアレよ。あと、バームクーヘンと金平糖と紅茶と、屋号の入った手ぬぐいとお茶、麻美さんのお父様の牧場で作ったチーズとフォンデュセットですって」 「豪華!」  思わずといった風に悠花が声を上げた。 「滝川牧場のチーズって、人気で手に入らないそうですよね」  雅美が言うと、皆、じいーっと引き出物の袋を見る。 「わかった。会社でチーズフォンデュしよう」 「え、いいの、湊君!?」 「家で1人でやるのもな」 「やったー!あ」  涼真が行人と恵梨香と柳内を思い出して、万歳した腕をどうしようかと悩む。  それを見て、その3人は笑い出した。 「そうだな。  湊。タニマチも役者も、欲望や嫉妬がサラリーマンよりもずっと強い。それにお前が勘付くとわかれば、余計に神経を尖らせる者も多い。悪循環だな。  そう思って、お前をお義兄さんに預けた」 「せめて、もっと電話くらいしてきなさい。お兄さんも知らせてはくれるけど、爆弾魔に襲われたとかナイフを持ったヒヨコを取り押さえたとか、不安にしかならないわ。  ナイフを持ったヒヨコって何なの?余計にわからなくて怖いわ」  別室のメンバーは思わず吹き出した。 「社長。その報告の仕方はどうなんです?」  悠花が言うと、柳内は口を尖らせた。 「だって、メールって字数制限があるだろ?それに、詳しい事は守秘義務もあるし」 「いや、中途半端にそう言われても、余計にわからなくて心配しますって」  涼真は、口の端をヒクヒクさせて言う。 「まあまあ。今後は湊君が定期連絡を入れるという事でいいんじゃないかしら」  雅美が言って、湊は肩を竦めた。 「面倒臭いな」 「まあ!呆れた!」  それで皆は帰る事にして、席を立った。  別室には、柳内も嬉しそうにいた。 「早速ですか」 「いいじゃないか!2人分チーズもあるし、楽しい事は皆で分け合おう」 「社長がいると、社員はリラックスできないんですよ」  言って錦織と柳内が皆の方を見ると、全員、わいわいと騒ぎながら楽しんでいた。 「慣れたようだね」 「そうですね」 「じゃあ、また来てもいいね!」 「頻繁に来るのはどうかと思いますがね」 「ケチな事を言うなよ、錦織君」  錦織は、 「まあ、良しとしますか」 と苦笑した。
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