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ホーリー・スター
「翼、早く来い早く来い!遅刻してる場合じゃなーい!」
「お、お前らな。元気すぎるだろ……」
ひーひー言いながら階段を上ってくる翼をせっつくように、達也はぐいぐいとその尻を押した。まったく、でかい図体をしているくせに情けないといったらない。この程度の階段で息があがろうとは。以前ならば、一緒にこの公園の長い階段もダッシュで上り下りし、そのたびに勝ち負けを競っていたくらいだというのに。
「翼、遅刻ー!今年はいつもより特別な夜だから、絶対遅れないでって言ったのに!」
丘の上に位置する、団地の公園。ベンチの上に先んじて鎮座し待っていたのは、達也、翼と同じクラスの遼子である。彼女がぷん、と怒って跳ねるたび、可愛らしく結んだポニーテールとその上のリボンが揺れた。毎年同じ黄色のリボンは、彼女が一番気に入っている色である。
達也、翼、遼子。幼稚園からの幼馴染であった自分達は、ここのところずっと毎年この日、必ず夜に同じ場所に集まっている。身内に内緒でこっそり抜け出してくるので、帰った後でバレて大目玉を食らうところまでがテンプレートだが気にしてはいけない。なんといっても、約束は約束だ。この夜だけが、自分達三人だけ過ごせる特別な夜なのである。特にこの公園は、自分達の秘密のスポットだ。電灯の少ない団地の一角、小高い丘の上、非常に好条件が揃っている。あとは晴天にさえ恵まれれば、この時期は本当に綺麗に星が見えるのだ。
「お前ら元気すぎ。望遠鏡抱えて頑張って階段上ってきた俺の身にもなってくれませんかねー?」
小学校の元気すぎるクラスメートの様子に、翼は呆れた様子だった。よいしょ、と持ち込んできた大きな袋を下ろす。そこには、彼が寒空の下、家から頑張って運んできた望遠鏡が入っていた。彼がカバーを開けていくのをうきうきとして眺めながら、達也はいつも通りの憎まれ口を叩いてやるのである。
「でっかいのに体力ない翼がいけないでーす。そもそも、今日がまさにどんピシャリでその日に当たるってわかってたのに、遊んでて遅刻しそうになるのがいけないと思う。早く来てセッティングしとけば、こんなバタバタになることもなかったんじゃねえの」
「ぐうの音も出ません、仰る通りです」
「早く!翼早く!しし座流星群始まっちゃうから!」
毎年同じ日に、夜こっそり会って星を見て雑談する約束をしている自分達だが。なんといっても、今年は去年までとは違うイベントが待っているのだ。そう、まさかのまさか、あのしし座流星群が見られる時期がどんぴしゃりで今日にブチ当たっているのである。確かに今は十一月だが、それでもこうピンポイントでぶつかり、かつ日本から見られる条件が当たるだなんて滅多にないことであるはずだ。
これはきっと、たくさんお願い事をしろという神様のお達しに違いない!と達也は思う。お願いしたいことは山ほどあるが、果たして流れ星が複数ならいくつもお願いしてもいいものなのだろうか。流れ星一つにつきお願い事は一つ、だと今まで勝手に思っていたのだが。
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