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今年の流星群は特大スペシャル!みたいなことを聞いていた。それだけに、それこそ数十個くらい流れてくれるかと期待していたのだが。残念ながら達也達が観測できたのは、一瞬だけきらめいて消えるような数個の彗星のみであったのである。
当然、お願い事を複数言う余裕があったはずもない。どうにか一番最初に慌てて唱えたお願いだけは、聞き届けて貰えたと信じたいところだが。
「くあー!無理だった!一個しかお願い言えなかったー!こんちくしょー!」
一番悔しがってるのが、翼である。望遠鏡にすがりついて、おいおいと鳴き真似をする。全く、良い年の大人になったのに、行動だけはいつまでも子供のようだ。
「一個言えればいいんだって」
自分も悔しかったが、そんな翼を見ていると“一個でも言えれば十分だった”と思えてしまうから不思議である。少し背伸びして翼の頭を撫でながら、達也は言うのだ。
「俺も一個ならお願いできたぞ。翼が東京の本店でも、しっかり営業頑張れるよーに!」
「無駄に具体的!そんなに心配か!」
「そりゃ心配に決まってるだろ、翼ってば今でも子供みたいなんだもんよ」
本来ならば、東京の本店に転勤なんて、滅茶苦茶栄誉なことのはずである。それなのに、田舎の街を恋しがり、自分達ふたりに会うこの行事がなくなってしまうかもしれないことを悲しむ翼。心配になるのも当たり前だ。――本当に、今夜会えて、流星群を見られて良かったものだと思う。
営業の仕事は忙しい。十一月のこの日だけ、都合よく有給を取るなんてきっと大変だろう。そのへんの事情を、達也はあまりよく分かっていないけれど。
翼は何お願いしたんだ、と尋ねれば。
「……どうせ達也と遼子は、俺のことばっかりお願いすると思ったからさ。喜べ、俺はお前らのことをお願いしてやったぞ」
ぐすっと、やや鼻を鳴らしながら言う翼。
「お前らが、生まれ変わって……次はちゃんと大人になれますようにって。……ごめんな。十三年も、お前らを此処に縛り付けて」
十一月十六日。この公園に、自分達が集まる本当の理由、それは。
事故に巻き込まれて死んだ、達也と遼子が――この日だけは地上にこっそりと降りて来られるから。
この団地のすぐ前で自分達が亡くなり、今日がその命日であるからだ。
ゆえに自分と遼子はずっと小学生のままなのである。翼だけは、もう良い年の大人になったというのに。
「気にするなよ、俺らは別に縛られてなんかいない。好きで此処に来てるだけだ」
「そうだよ翼。気にしないで」
「でも、俺があんまり不甲斐ない“弟”だから、心配で毎年会いに来てくれたんだろ」
それは、完全に否定することなどできないけれど。達也は首を振る。けしてそれだけではないのだ、と。
「会いたかったから会いに来てるだけだってば。……大人になって、仕事して頑張ってる翼を見送れる。俺らはそれで、十分幸せだ。……そうだろ遼子」
「うん」
達也と同じく、小学六年生の姿のままの遼子が。にっこりと笑って、同じように翼の頭を撫でた。あの頃いつも泣いていた翼を、そうやって慰めていたように。
「私もお願いしたよ。……生まれ変わったら、また三人で遊ぼうって。でも、翼は当分こっち来ちゃだめだからね。きっちりオジイちゃんになって、幸せだったぞーって思いながら大往生しないとだめだよ。わかった?」
「……ああ」
大人になっても、すぐ泣いてばかりの自分達の“弟”は。コートの裾でごしごしと目元を擦りながら、自分達に言うのである。
「ありがと。……絶対、約束する」
その夜。誰も、別れの言葉は言わなかった。
遠く離れても、成仏しても、大人になっても。自分達三人の永遠は、確かに此処に存在しているのだ。
思い出に、さよならは必要ない。
見えなくても、星の光はずっとそこにあるように。
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