三 チェリー

1/1
42人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

三 チェリー

 彼女と出会って、僕は、この世に生まれ来るタイミングを間違えたことを心から憎んだ。  本来なら、常識的に考えて、諦めるべき恋なのだ。  だってあの子は女子高生だぞ。友人に打ち明けたのならば、絶対、何を考えているんだって言われるに決まっている。  そしてあの子だって、急に僕に話しかけられようものなら、「こいつはなにを言っているんだろう」って、思うに決まっているんだ。  それでも、抱いてしまった気持ちに、嘘はつけない。  彼女の、髪がきれいだ。触れたいと思ってしまう。  彼女の、瞳がきれいだ。その瞳に僕の姿を映してくれるとしたら、どんなに嬉しいことか。  そしてやっぱり、彼女の、口元が大好きだ。彼女の口角が上がったり下がったりするのを、四六時中見ていたい。  ……いや、嘘はいけない。本当は見ているだけじゃなくて、熟れたさくらんぼのように赤い彼女のその唇を、「食べてしまいたい」と、そう思う僕はやはり変態なのだろうか。  終点に着くまで、あと三分。  静まれ。静まれ。心臓の音。電車の音にまぎれて、わからなくなってしまえ。  
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!